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ルイズとワルドの二人は、朽ちた村の小屋で一晩を過ごした。 翌日、昼頃に目を覚ますと、ルイズがどこからか取ってきた野ウサギを解体していた。 ルイズの細腕がウサギの毛と皮をむしり取る姿は、どこか年期のいったものに見えるほどだった。 あらかじめ血抜きをしておいたのか、それとも血を吸ったのか、ウサギの肉は思ったよりもあっさりとした味だった。 ワルドはルイズに『手慣れているね』と軽い気持ちで言おうとしたが、今の自分がどんな立場なのか思い出して、結局何も言わずにいた。 料理などしたこともない公爵令嬢が、吸血鬼となって家名を捨て、傭兵に混じり生きてきたのだ。 太陽の下を歩く吸血鬼!ディティクト・マジックですら吸血鬼と人間は判別できないのに、太陽の下を歩けるとなれば、いよいよその区別はつけれられなくなる。 昨日、ルイズが自分の身に起こった出来事を語ってくれたが、それが本当ならばルイズは家名を捨てる必要など無かったはずだ。 しかしルイズは家名を捨てる道を選んだ、そこにどんな思惑があったのか、そこにどんな葛藤があったのかワルドには解らない。 だが、少なくとも自分よりも先を見ている気がするのだ。 聖地、聖地、聖地、いつか聖地へとたどり着きたい、その願いがワルドをレコン・キスタへと走らせた。 そこに何があるのか解らない、けれども、何か納得できるかもしれない。 ワルドの考えはせいぜいそこまでだった。 ルイズは違う、自分の思うように生きている、自分で自分に制約を課して生きている。 小さな小さなルイズは、いつの間にか自分よりも大きな、揺るぎのない存在へと成長している気がした。 食事を終えた後、ルイズは小屋の裏手で、地面を掘った。 驚異的な腕力で指を突き立て、重いタンスをひっくり返すように地面を持ち上げる。 地面に突き刺した腕を中心にヒビが広がっていき、スコップを用いることなく地面に手頃な穴ができあがる。 そこにたき火の灰や、ウサギの骨などを埋め、この村に滞在した証拠を念入りに隠した。 ルイズが小屋に戻ると、ワルドの手を取った。 「あなたの足じゃ時間がかかり過ぎるわ、私が貴方を背負う、いいわね」 「拒否権は、無いのだろう?」 「ええ」 ワルドはルイズに手を引かれて立ち上がると、背を向けたルイズに寄りかかった。 吸血馬の骨が埋まっているので、ルイズの身長は普段より大きい、それでもワルドよりは小さいので、少々不格好な背負い姿になる。 ルイズが両手を後ろに回し、ワルドの尻を持ち上げると、ワルドはルイズの首に手を回した。 「首を絞めるつもりでつかまないと、落ちるわよ」 ルイズは一言呟いてから、ゆっくりと第一歩を踏み出した。 一歩、また一歩と、大地の感触を確かめるようにして足を進めていく。 最初歩くよりも遅かったが、次第に速度を増し、空に星が見える頃には馬以上の速度に到達していた。 ひゅん、と音を立てて、顔のすぐ側を木の枝が通り過ぎていく。 まるで風になったようだと、ワルドは思った。 一方、ルイズも自分の体が妙に走りやすくなっているのに気づいた、足の感触が今までと違うのだ。 以前よりも繊細に大地の感触が伝わってくる上に、地面を蹴る足の力が以前よりも上がっている気がする。 吸血馬が力を貸してくれているのだろうか?と思えるほどだった。 ルイズは気づいていなかったが、地面に残る足跡はU字をしており、馬蹄の跡にしか見えなかった。 ルイズは森の中を走り、時には街道を横切り、ワルドの元領地へと走っていった。 ラ・ヴァリエールの領地のどこに街道があるのか、どこに旅籠があるのか、どこに集落があるのか、ルイズはすべて記憶している。 人に見つからない、それでいて最短のルートを想像し、ルイズは走った。 不意に、トリステイン魔法学院に入学する時のことを思い出す、ラ・ヴァリエール邸を馬車で出発したルイズは、丸一日近い時間をかけて魔法学院にたどり着いた。 それが今はどうだ、ラ・ロシェールから離れた名もない村から走り出し、そこから夜が明けぬうちにワルドの領地に差し掛かっている。 自分はいったいどれぐらいの速度で走っていたのだろう? 少なくとも、馬が全力で走るのと同じだけの速度はあるはずだ、しかし物足りない。 吸血馬は圧倒的なパワーを持っていたが、驚異的な速さで走ることはできなかった。 しかし全力を丸一日以上出し続けられる体力があり、結果として吸血馬は馬よりもグリフォンよりも早く地上を駆けることができた。 吸血馬の姿を思い出すと、手首と足首に埋め込んだ骨がうずく。 肉腫を脳に埋め込み、吸血馬を操り、挙げ句の果てに骨になってもまだ利用する自分が、とても浅ましい存在に思えた。 それなのに、これからワルドの母を食屍鬼として蘇らせようとしている。 ただ蘇らせるのではない、ワルドを操るために蘇らせるのだ。 木々の隙間から見られる空が、白みがかったと思われる頃、背負われていたワルドが声を上げた。 「止めてくれ」 ルイズは無言のまま速度を落とし、50メイルほど足踏みをしてから止まった。 「…ふう」 ため息をつきつつ、ルイズはワルドを降ろし、地面に膝をついた。 「けっこう疲れるわね。あの子みたいにはいかないか……」 吸血馬の体力を思い出しつつ、自分の体を見た。 夜目の利く目で自分の足を見ると、細い足に筋肉の筋が浮かんでいるのが解った、それは屈強なドラゴンの足を思わせるほどの堅さと、グリフォンの翼のようなしなやかさを兼ねていた。 筋肉の緊張を解くと、浮き出た筋は溶けるように消えていき、柔らかい少女の足へと変わっていった。 「さっき横切った街道から見て…西側に館があるはずなんだ。今はもう封鎖されているか、人の手に渡っているかもしれない」 そう言ってワルドが空を指さす、月と星の位置から西がどちらかを割り出したのだ。 「……私もそのあたりのことは聞いてないわね。お母様の遺骸はどこにあるの?」 「墓地は離れた場所にある、西に丘があるんだ、母はそこに眠っている」 ルイズは再度身をかがめようとする、ワルドを背負うためだ。 だが、ワルドはそれを断った。 「歩かせてくれ、ここを、歩きたい」 「…いいわよ」 ルイズは立ち上がると、ワルドの手をって歩き出した。 ワルドは足にまだ違和感が残っているためか、ひょこひょこと足を引きずるように歩いた。 ぽつりと、ルイズの頬に冷たいものが落ちた。 見上げると白みがかった空には、黒い雲が浮かんでおり、この時期には珍しい雨が降り出そうとしていた。 「好都合ね」 ルイズはそう呟くと、ワルドと二人で歩いていった。 二人が墓地に着いた頃には、空は黒い雲に覆われていた。 ザァザァという雨の音が、二人の足音と臭いを消している。 薄暗い墓地を歩く二人の姿はとても異様だった、半裸の少女と、ボロボロの魔法衛士隊が並んで歩いているのだから、人が見たら何事かと思うだろう。 小高い丘に作られた墓地の、一番高いところに、白い塀と茨のツタで囲まれた一角があった、扉には紋章が刻まれており、それを見ればここがワルドゆかりの地であると解る。 高さ2メイルほどの塀に囲まれたそれは、貴族の墓地としては小さい方だが、名前の刻まれた石の並ぶだけの石と比べて、遙かにその規模は大きい。 平民の墓地は石が並ぶだけだが、ワルドの両親の眠る墓は、魔法学院でルイズが暮らしていた部屋よりもはるかに大きい。 平民の墓地と比べ、明らかな雲泥の差、死後も彼らとは立場が違うのだ。 ルイズが目をこらして周囲を見回す、周囲に人の姿は見られない。 仮に鳥やモグラなどの使い魔がいたとしても、ルイズの目はそれを容易に捕らえる、誰にも見られていないと判断して、ルイズはワルドの腰に手を回した。 ルイズはワルドを軽々と持ち上げ、槍状の棘が並ぶ塀へと飛び上がった。 太さ1サント、長さ15サントほどの棘がルイズの足に突き刺さる、だがルイズはこともなげに足を持ち上げ、塀の内側へと跳躍した。 着地の瞬間、膝を折り曲げて衝撃を逃がしたので、石畳はひび割れることなくワルドとルイズの重量を受け止めた。 ワルドを降ろしてから、墓地の入り口を見る。 鋼鉄の扉から続く石畳が、墓地の中央から奥の廟へいざなう、両脇には薔薇が植えられていたが、誰にも手入れされていないせいか、乱雑に枝が伸び、一部は塀の裂け目から外へと飛び出ているようだ。 奥の廟はトリステインでは珍しい形式で、遺体を安置する館と言えるだろう、観音開きの扉は大人二人が並んで入れるほどの大きさがあり、中は魔法学院の寮と同じぐらいの広さがあるだろうと容易に想像できた。 「杖が無いな」 ワルドの呟きを聞き、ルイズは何のことかと首をかしげた。 「いや、”アンロック”だよ」 「アンロック?そんな時間無いわ、力づくで開けるわよ」 廟の扉には鍵がかかっているのだろう、ワルドはそれを心配していたのだ。 ルイズはずかずかと廟の扉に手をかけると、鍵がかかっているかを確かめるために、軽く取っ手を引っ張った。 ギィ、と音を立てて扉が開く。 「……改めて見ると、すごい力だな」 感心したようなワルドの呟きに、ルイズはふと疑問を感じた。 扉を開いたとき、まったく抵抗を感じなかったのだ。 「ワルド、鍵は壊れてないわ…何の抵抗も感じなかったもの」 「なに?」 ワルドが扉の裏側をのぞき込むと、確かに鍵にはなんの損傷も見られなかった。 「この扉を最後に閉じたのはいつ?そのとき、ロックはかけた?」 「父が戦死して、母が死んで……埋葬した後には誰もここには来ていないはずだ」 「平民の盗賊だったら鍵なんて壊すでしょうね、でも見て…なんの傷跡もない、アンロックで開けられた扉よ、これは」 ワルドはルイズを押しのけるようにして廟の中に入っていく。 廟の内側には、壁に歴代当主の名前が刻まれていた、よく見ると遺品なども飾られている 。 その中央に、ひときわ高い大理石の棚がもうけられ、上には漆黒の棺桶…ではなく、炭のようなものが置かれていた。 それを見たワルドの目が、大きく見開かれた。 「そんな!…そんな…馬鹿な…馬鹿なッ! そんな!誰が、誰がこんな!こんな事を!」 炭を手に取り、ワルドが叫ぶ。 手の隙間から風化した炭がボロボロと崩れ落ちていく、それをかき集めるように、ワルドは炭に手を入れた。 「ワルド!落ち着いて。説明してよ、どういう事なの?」 ルイズがワルドの左腕をつかむ、狼狽えていたワルドの体が、ルイズの腕力で静止した。 ルイズの握力に顔をしかめつつ、ワルドは興奮を押さえようと、右手で自分の胸を押さえ、呼吸を整えた。 「僕は、母の遺骸をここに安置した、白い棺桶の中に眠る母に、花を沢山添えて、固定化の魔法までかけたんだ」 ワルドの声に、焦りから怒りが見え始める。 「遺骸がミイラ化することはあっても、誰かが手を加えなければ、こんな、こんな炭になるはずはない、そうだろう。そうだろう!?」 ワルドは怒りと怯えの混じる目でルイズを見た、ルイズはワルドの腕から手を離すと、ワルドを押しのけ、炭の中から頭蓋骨を探した。 「ワルド…ねえ、おばさまを生き返らせる前に、言っておきたいことがあるの。よく聞いて…」 「生き返るのか?骨でも?」 ルイズが無言で頷くと、ワルドはつばを飲み込み、ごくりと喉を鳴らした。 「もし、おばさまが吸血鬼の本能に負けたら、手当たり次第に食屍鬼を増やす化け物になるわ。吸血鬼の本能に勝てる自信はある?」 少しの沈黙の後、ワルドは「母は誰よりも誇り高い人だ」とだけ言った。 「もし、本人に生きる意志が無ければ、すぐに体が崩れていくわ。二~三言の会話しかできないと思う……」 「かまわない、やってくれ」 ルイズは頭蓋骨を棚の上に置き、その上に左手を掲げ、右手の爪で左腕を切り裂いた。 ぽたっ、ぽたっ、と音を立てて、ワルドの母の頭蓋骨に血が落ちる。 およそ一分間、ルイズは頭蓋骨に血を垂らしていった。 ガタッ、と音がして、頭蓋骨が独りでに揺れる。 ボコボコボコボコと音を立て、まるで泡立つように頭蓋骨の中から血がしみ出し、しばらくすると頭蓋骨の焦げ跡は消えてしまった。 更に血を垂らし続けると、今度は頭蓋骨の表面に少しずつ皮のようなものが浮き出て来る、そこでルイズは血を止め、再生されていく頭蓋骨をじっと見つめた。 (私は今、ワルドを騙そうとしている) ルイズは、ワルドの母を生かすつもりは無かった。 なぜこんな依頼を引き受けたのか、なぜ食屍鬼を作る気になったのか、はっきりとした理由が思いつかないのだ。 あえて理由を見つけるとしたら、二つのものが思い浮かぶ。 一つは、ワルドの母がなぜ自殺したのか、その理由を知りたいと思ってのこと。 もう一つは、母への依存心が気に入らないという理由だ。 もしかしたら、ルイズはワルドの母に嫉妬してしまったのかもしれない。 今のワルドは、まるで母に呪縛されているようではないか、それがルイズには気に入らない。 ワルドは自分だ、ワルドはルイズと同じように母に呪縛されている。 いつの頃からだろうか、ルイズは、母を恐れ、母を尊敬し、母のようなメイジになりたいと思っていた。 ゼロと呼ばれていた自分が虚無の使い手だった!それを母に言ってやりたい、姉たちも父も私を見返してくれる! でも、それはもう、できない。 自分の代わりに、ワルドを使って、母との決別をさせようとしているのかもしれない。 私は、いつからこんな考えをするようになってしまったんだろう…… びくん、びくんと動く頭蓋骨は、いつの間にか髪の毛が生え、眼球ができあがり、口をぱくぱくと動かしていた。 「ウ……」 生首がうめき声を上げ、目を開けた。 「オ……オオォォォォー……ジャン……わたしの…ジャン……」 「あ、あああ!!母さん!」 「ワタシノオオオオオオ ジャンンンンンンン!」 くわっ、と生首の口が開かれ、牙となった犬歯をむき出しにした、次の瞬間髪の毛がバネのように動き、生首が宙を舞った。 「!!」 ルイズは咄嗟に手を出し、生首の動きを遮った。 しかし、ずぶりと牙がルイズの手首にかみつき、そのままゴキゴキと音を立ててルイズの骨を砕き始めたのだ。 「くっ…」 ルイズは髪の毛を伸ばし、生首の顎を掴んで無理矢理開かせ、腕から引きはがした。 同時に一部の髪の毛を後頭部から脳髄へと差し込んでいく。 「乾ク…乾クノオオオォォォォ」 「か、かあさん!僕の血を、僕の血を使ってくれ!ルイズ、母は苦しんで居るんだ、血を…」 「駄目よ!これを乗り越えられなければ、理性のない吸血鬼になるわ!母親を信じなさい!」 ルイズは、驚くほど自然に嘘をついた。 乗り越えられるはずがないのだ、五体満足で吸血鬼になったルイズと違い、食屍鬼となったワルドの母が理性を保てるはずがない。 ただ、一つだけ理性を取り戻させる方法があった、それもルイズが作り出した理性のようなものであり、本人の人格とは遠いかも知れない。 ルイズは髪の毛を肉腫として脳内に仕込み、忠誠心を呼び起こす応用で、『乾き』を麻痺させようとしていた。 「ウウウオオオオオオアアアアアア」 「アアアア…オオオオ」 「………オ…ォ…」 次第に凶暴な顔つきは、穏やかな顔になって、ワルドの覚えている母の顔に近くなっていった。 ワルドと同じ灰色の髪の毛と、整った顔立ち、そして優しそうな眼。 ワルドの母は、美女と呼ぶに相応しい雰囲気を漂わせていた。 「母さん…」 「おお…ジャン…私の…ジャン…わたしは、わたしは…」 「かあさん、もうすぐ体も元通りになれるんだよ、母さん」 ワルドは、ルイズに抱かれている生首の頬を、愛おしそうに撫でた。 ワルドの母は慈しむような眼差しを返したが、その表情はだんだんと曇っていった。 「かあさん、どうしたんだい?なぜ泣いているのさ」 「ああ…なぜ、なぜわたしは生きているの、辱めを受けた私をそのまま死なせてくれなかったの」 「…え」 「リッシュモンが…ああ、にくい、あのおとこが、あのおとこが、あのひとをヲヲヲオオオオオオ」 ガタガタと生首が震え出し、表情がまた険しくなっていく。 ルイズの埋め込んだ髪の毛でも、ワルドの母を制御することはできなかった。 ルイズは少しずつワルドの母から血を吸い取っていく、みるみるうちに顔にはしわが刻まれ、目は落ちくぼんでいった。 「か、母さん!どういうことなんだ、リッシュモンが、どうしたって言うんだ!教えてくれ母さん!」 「アアアァ……アノヒトハ…戦死ジャナイ……リッシュモンニ…殺サレ……私ヲ手ニイレルタメニ……ゴメンナサイ アナ タ」 ボロボロと崩れ落ちる頭蓋骨、その粉をワルドは必死で拾い集めた。 ルイズはただ、呆然と、腕の中で崩れていくワルドの母の姿を見ていた。 「ああああ…母さん…母さん…」 もう涙も出ないのだろうか、ワルドは地面に落ちた母の骨…の粉を握りしめていた。 「……」 ルイズも、ワルドと同じように、どうしていいのか解らなかった。 髪の毛で作り出した肉腫は、生物の脳から感情を引き出したり、押さえることが出来るはずだった。 しかし今回は、リッシュモンへの恨みと、死にたいという感情がルイズのコントロールを上回り、落ち着かせる事ができなかった。 そして、アンリエッタの信頼厚いリッシュモンの悪行。 アノヒト、というのはワルドの父のことだろう、戦死したと聞いている。 そしてワルドの母も、リッシュモンにいいようにされていたのだとすれば、なぜ死体が焼かれていたのか、その理由が想像できる気がした。 「…レコン・キスタ」 「………何?」 ルイズの呟きを聞き、ワルドが顔を上げた。 「アンドバリの指輪は、水の先住魔法が込められた指輪、それこそ死者をも蘇生する力を持つわ。でも遺骸が無ければ蘇らせることも出来ない」 「どういうことだ」 「あなたの母は、あなたに知られては困る情報を持っていた。だから死後念入りに焼かれた…もっとも、頭蓋骨は半分形をとどめていたけれど…」 「じゃあ、まさか、僕は、リッシュモンは」 「十中八九、レコン・キスタと繋がっているでしょうね。貴方はまんまとハメられたのよ」 ゆらりと、ワルドが立ち上がった。 「はは…そうか、そうか」 おぼつかない足取りで、ワルドは廟の外へ出ていく。 一歩、また一歩と、歩いていった。 出遅れたルイズが廟の扉を閉め、急いでワルドの隣に並ぶ。 「いっそ、殺してくれ」 「だめよ」 「生き恥を晒したくない、母と一緒に、僕を葬ってくれ……いや、レコン・キスタに関する情報を根こそぎ喋ってから、拷問されて殺されてもいい」 「それも駄目よ」 「なぜだい?ルイズ、僕を哀れんでいるのか」 「違うわ、違う。拷問よりも、死ぬよりも、先にやることがあるでしょう?」 「…やること、とは」 「一緒にリッシュモンを殺しましょう?」 ルイズの犬歯がきらめき、吸血鬼独特の牙に変化した。 それを見たワルドは、明らかに恐怖とは違う何かが、背筋に走るのを感じた。 ルイズの手を取り、その指にキスをする。 遠くどこかの世界、画集に収録されたモナリザの手を見て、勃起した男がいた。 ワルドもそれに似ていたのかもしれない、欲しいものを見つけたのだ。 空虚なワルドの心に、ルイズの狂気に満ちた笑みが入り込んだ。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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夕方になり、ワルドとギーシュが女神の杵に戻ってきた。 ギーシュは、あっちを見てこいこっちを見てこい等と、一日中こき使われたらしい。 「魔法衛士隊は、ばけものだ…」 酒場のテーブルでへばっていたギーシュが、そう呟いた。 「馬鹿ねえ、朝は『魔法衛士隊隊長のお供が出来るなんて幸せだ!』とか言ってたクセに」 「ううう…」 キュルケに言われても何の反論も出来ない、それを見たタバサは相変わらずパジャマ姿のまま読書していた。 しばらくしてから、ワルド、ロングビル、ルイズも酒場へ集まり、明日の予定が話し合われた。 今日ギーシュとワルドが交渉したおかげで、朝一番に出航する輸送船でアルビオンに行けることになった。 明日は朝が早いので、遅れたら置いていくと語るワルドに、ギーシュは今日何度目か分からない冷や汗を流した。 そろそろ部屋に戻ろうと、ワルドが立ち上がった時に、酒場の外からガヤガヤと声が聞こえてきた。 ラ・ロシェールの町は宿場町でもあるので、夜中でも人通りはある、しかし何か雰囲気がおかしい。 ワルドに続き、キュルケとタバサもそれに気づいた。 次の瞬間、扉が吹き飛ばされ、軽装鎧を着込んだ男がルイズ達に弓矢を向けた。 突然の事に驚いたのはルイズ達だけではない、この酒場には他の客もいるのだ。 慌てて逃げようとした客達は、弓矢におびえてカウンターの下に隠れている。 ラ・ロシェール中の傭兵が集まっているのではないかと思えるほどの傭兵を前にしては、キュルケ達でも分が悪かった。 テーブルを盾にして矢をしのぎ、魔法で応戦していたが、どうにも勝手が悪い。 傭兵たちは魔法の有効な範囲になかなか入ってこない。 メイジとの戦いに慣れているのか、キュルケ達が応戦しているうちに射程を見極められているようだった。 他の客たちはカウンターの下で震えているのが見える。 「参ったわね…」 ロングビルの言葉に皆がうなずく。 「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」 非常事態にもかかわらず本を読んでいたタバサは、ワルドの言葉を聞いて本を閉じた。 そして、ワルドとルイズとロングビルを指さした。 「桟橋」 そしてキュルケと自分とギーシュを指さし 「囮」 と呟く。 ワルドがタバサにタイミングを尋ねると、タバサは今すぐと答えた。 「聞いてのとおりだ。裏口に回る、行くぞ!」 ルイズははキュルケ達を見ると、キュルケはご自慢の赤髪をかきあげ、つまらなそうに唇を尖らせていた。 「危なくなったら逃げなさいよ!」 「何言ってんのよ、もう十分危ない目に遭ってるじゃない」 ルイズがキュルケを心配するが、キュルケは余裕の表情を崩さない。 タバサがルイズを見つめた。 「行って」 ギーシュも薔薇の形をした杖を手に持ちつつ、ルイズを見た。 「こ、これも姫様のため、そして友人のためさ!」 緊張か恐怖のあまり、微妙にろれつが回っていなかったが、そんな虚勢がルイズの心を解きほぐした。 「ねえ、ルイズ。勘違いしないでね?あんたのために囮になるんじゃないんだからね」 「わ、わかってるわよ、か帰ってきたら決着を付けるんだからね!」 ルイズはそう言ってから、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。 そんなちぐはぐな態度がおかしくて、震えていたギーシュにも少し余裕が戻る。 ロングビは転がっていた椅子をバリケード状の金属板に練金し、ワルドとルイズを連れて裏口へ急いだ。 通用口から出る頃には、酒場から爆発音が聞こえてきた、陽動が始まったのだろう。 「……始まったみたいね」 先行するワルド、しんがりのロングビルに挟まれて、ルイズが言った。 裏口の方へルイズ達が向かったのを確かめると、キュルケはギーシュに厨房の油をもってくるように命令した。 「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」 「揚げ物の鍋のことかい?」 「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」 「お安い御用だ」 ギーシュはテーブルの陰で杖を振りワルキューレを出す。 ワルキューレは矢を体にめり込ませながら厨房に走り、油の入った鍋を運び出した。 「ギーシュ、それを入り口に向かって投げて」 そう言いながらもキュルケは化粧を直している。 「こんなときに化粧するのか。きみは」 呆れ気味のギーシュがワルキューレを操り、油を酒場の入り口に向かって投げる。 「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」 まき散らされた油に向かって、キュルケは杖を振る、油は一気に引火して、酒場の入り口とその周辺に炎を振りまいた。 「花びら」 タバサが短く言うと、風の呪文を詠唱して床に風を起こす。 ギーシュは言われるままに、薔薇の形をした杖から花びらを放ち、風に舞わせた。 「練金」 タバサの指示にハッと気づいたギーシュは、花びらを油に練金する。 色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱するキュルケが、再び杖を振るう。 タバサの風が花びらを巻き込み、花びらは油となる、そこにキュルケの放った火球が混ざり、地面を炎が覆い尽くした。 炎は酒場の外にいるる傭兵達にまでからみつき、つい先ほどまで統制のとれていた傭兵達は、一瞬で混乱状態に陥った。 ギーシュは驚いていた、キュルケとタバサの使った魔法はごく基本的な魔法だ。 しかし、火、油、風の三つが、酒場の外を覆う傭兵達を混乱させ、何割かを戦闘不能に陥いらせている。 ルイズは自分の失敗魔法をコントロールすることで、ギーシュとの決闘に勝った。 ギーシュは使い方次第で驚くべき効果を発揮する魔法と、それを効果的に操るキュルケとタバサに尊敬のまなざしを向けた。 そして、自分の無知を恥じつつ、ルイズの無事を案じていた。 その頃ルイズ達は桟橋へ向けて走っていた。 とある建物の間にある長い階段へと駆け込み、脇目もふらず駆け上る。 長い階段を上りきって丘の上に出ると、そこに生えた巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしていた。 山ほどもある樹の枝に、船が吊されているのを見て、ロングビルは「急ぎましょう」とルイズに言う。 この樹は内側が空洞になっており、いくつかの階段があった。 ワルドが階段にかけられているプレートから目当てのものを探し、そこを駆け上がる。 途中の踊り場で、ルイズは後ろから近づいてくる何者かの気配に気づいた。 後ろを見ると、ロングビルの後ろに黒い影が近づいている。 ばっ、とロングビルとルイズの頭上を飛び越して、その影はルイズの前に立った。 「ヴァリエール嬢!」 ロングビルの声に反応したルイズが、後ろに飛ぶ。 男はルイズを捕まえようとしたが、ルイズが予想外の反応速度で跳んだのでからぶってしまう。 その隙にロングビルが仮面を付けた男の足下を練金し、足を鉄で拘束する。 「行きなさい!」 ロングビルが叫ぶ、ルイズは無言で頷き、仮面を付けた男の脇を走り抜けようとした。 男は杖を振り呪文を唱えたが、それより一瞬早くルイズの周囲に金属のドームが作られた。 仮面の男が持つ杖から電撃が放たれたが、ドーム状の金属に吸収されて、あっけなく霧散してしまった。 仮面の男は、ロングビルを見た、いや、仮面に隠されてはいるが、その目は明らかにロングビルを睨んでいるのだと分かる。 「土くれのフーケ…貴様、裏切ったか…やはり盗賊は盗賊だな」 「ふん、あんたが何者なのか知らないけどね、あたしは一匹狼が似合ってるのよ」 そう言いながらロングビルは男の周囲を練金し、男を土で包み込んだ。 「貴様!後悔することになるぞ」 「おあいにく様、狙われるのは慣れっこよ」 男は、ベキベキベキベキと嫌な音を立てながら、土の中に消えた。 「ふう…あたし、何やってんだろ」 そう呟くロングビル…いや、土くれのフーケの表情は、貴族をからかっていた時の笑顔とはまるで違う、和やかなものだった。 「まったくだな」 「!?」 ロングビルは、背後から突然聞こえた声に驚いた。 慌てて後ろを振り向くと、そこには今死んだはずの、男が杖を向けていた。 呪文を詠唱する間も無いと悟ったロングビルは、踊り場の窓を突き破って外に飛び出す。 フライの呪文で体勢を立て直そうとするが、仮面の男はそれよりも早く外に飛び出て、ロングビルに杖を向ける。 「『ライトニング・クラウド』!」 バチン、と男の周囲で空気が弾ける音が鳴り、次の瞬間、ロングビルの体を電撃が走っていた。 「ッあああァァあァアアあッ!」 電撃による衝撃で意識を失い、ロングビルは地面に落ちるかと思われたが、仮面の男はロングビルをゆっくりと地面に着地させた。 そして、ふと『女神の杵』の方を見る。 既に傭兵達を倒したであろう三人が、ロングビルの後を追ってくるのは想像に難くない。 仮面の男は、懐から掌に収まる程度の箱を取り出すと、うつぶせに倒れたロングビルと地面の間に挟み、短く練金の呪文を唱えた。 小さな箱から、カチリ、と不吉な音が鳴った。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-19]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-21]]}
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犯人はルイズ 第2弾 021-アイテムカード MP 1 オープンだっ………! もうすぐ始まる……… 魔を招き入れての変態の舞……… マリオカートRTAの扉が開く……! 【効果】 ステータスの中で攻撃力がもっとも高いカードを山札から1枚選んで手札に加える。 但し攻撃力と同じ数値のステータスがあるキャラ、特殊キャラは選択できない。 ハットリ&めだまむし デッキから攻撃力が高いキャラ、すなわち背景が赤色のキャラクターカードをサーチするカード。 ただし、攻撃力と同値のステータスがあるキャラは選べない。 第1弾では【中村(002)】【ツクール屋】【順子】【ニコニコ視聴者(♂)】、 第2弾では【ハチャ】【HANIWA(062)】【リザイン】【うるち(084)】が該当する。 当然ながらこれらのカードは、類似した効果を持つ【きたないくるみ】【ヤンデレマンクス】でもサーチできない。 ○○の評価する犯人はルイズカード 以下名前出してもいい人解説してくれ。 関連カード ステータスの中で攻撃力がもっとも高く、攻撃力と同値のステータスを持たないカード ハットリ あるば(006・007) ゆうぢ DQN もじゃみ latte-D(022・057) 実況プレイヤー(♂) フーリア 神保の足軽(041・042・043) グリコ Luar ゴート(049) 怒羅悪(059) HANIWA(063) 輝月零(064) なるたそ 対象外 かんつー(070) ギバ 折紙(072) ちっき 中村(083)
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ルイズが魔法学院から抜け出して約十分。 町からも、街道からも離れた、ある貴族の別荘が見えた。 この別荘は、トリスティンの城から見て、魔法学院から更に離れたところにある。 別荘の主を『モット伯』だが、この別荘を『モット伯の娼館』と揶揄するものもいる。 森の中にある別荘は街道からも見ることは出来ない。 しかし、街道を通る行商人たちは、年頃の娘が女衒らしき男に連れられて、森の中に入っていくのを何度も見かけていた。 ドシャッ、と音を立てて、ルイズは森の中に着地した。 別荘の周囲は壁に囲まれており、忍び込むのは容易ではないと感じさせる。 そこでルイズは思考した。 『建物の大きさ、庭の形、衛兵の位置を、空中から見た限りでは、空からの侵入がもっとも確実だが、私は空を飛ぶことが出来ない』 …ふと、ルイズを目眩が襲う。 ブルブルと頭を振って、気を確かにしようと気合いを入れる。 おかしい。何かがおかしい。自分は空を飛べないはずだ。では、どうやってここまで来た? 馬でもない。馬で来るに速すぎる。タバサのシルフィードに乗せてもらえば短時間で来ることも可能だが、そんなはずはない。 空から別荘を見た記憶がハッキリと残っている。自分は、いつの間にか空を飛んだのか!? ゴクリと唾を飲み込み、深呼吸して、考えを中断させる。 「今はシエスタを助けなきゃ」 そう呟いて、ルイズは別荘の正門へと歩いていった。 正門から堂々と入り込んだルイズは、使用人に応接室へと案内され、モット伯の歓迎を受けた。 その途中、女性の使用人を何人か見かけたが、使用人と呼ぶには幼い少女も混ざっている。ルイズはそれに嫌悪感を感じた。 それに気づいたのか、モット伯はルイズに話しかけた。 「ああ、この館の使用人が何かご無礼を致しましたかな?」 「そうとは言ってないわ」 「そうでございましたか。いやはや、彼女たちは貧しい家の出でしてな。私は彼女らに職を与え、教育を施し、生きるための場所を与えているのです。 教育は私の生き甲斐でしてな!」 そう言って高笑いするモット伯に、心底つまらなそうな目を向けると、モット伯は不敵な笑みを浮かべた。 「そうそう、あのシエスタというメイドの事でしたな。彼女は実に気だてが良いのですよ。 良い教育を受けさせれば、メイドだけでなく教育係の口もありましょう。ですから私が彼女を預かろうとしたのです。料理長も快く…」 「快く? なら、あの金貨は何?」 腹立たしさを隠しきれないルイズは、自分の声が心なしか低くなっているのに気づいたが、今更怒りを隠しても仕方ないと考えていた。 「…おやおや、ご存じでしたか。何せ優秀なメイドを引き取るのですからな。私からあの料理長…ええと、確かマルトーと言いましたか、彼へのココロザシというものです」 「そう? まあいいわ。それよりもシエスタに会わせて貰えないかしら」 「ははは、そうそう急ぐこともないでしょう。夜分にこの別荘をお尋ね頂いたのです。シャンパンでも開けましょうか、このシャンパンはなかなか珍しいものでしてな」 モット伯は、まるでルイズを無視するかのように話を続けると、使用人にシャンパンを持って来させた。 「雲が月を隠すと、雲の隙間から鈍い光が漏れます。雨が降った後であれば、月明かりが蛍のように雲を光らせるのです。このシャンパンはそれをイメージしたものです」 シャンパンを開けると、ぼんやりと輝く白い煙が出て、さながら星空のように天井を覆った。 ギーシュとは違う意味でキザったらしい態度を取るモット伯に、ルイズも我慢が出来なくなった。 「もういいわ!シエスタはヴァリエール家で引き取る約束が済んでるのよ!すぐにシエスタに会わせなさい!」 モット伯は貴族ではあるが、ヴァリエール家に比べればその格式には雲泥の差がある。 ヴァリエール家で引き取るのは出任せだが、家の名を使ってモット伯を脅かせば、少しは効果があるはずだと、ルイズは思いこんでいた。 「目も耳もありません」 だが、突如後ろから聞こえた声にルイズは背筋を凍らせた。 ルイズは腰に携えた杖を掴もうとしたが、声の主に腕を掴まれ、杖は床に滑り落ちてしまう。 「光る煙を出すシャンパンなんて悪趣味だと思ったけど、頭の中も悪趣味ね!」 気丈にも腕を掴まれたまま叫ぶルイズ。 ディティクトマジックという魔法がある。 マジックアイテムが仕掛けられていないか、誰かに魔法でのぞき見されていないかを探す魔法で、光り輝く粉が探査領域を舞うという特徴を持つ。 煙を出すシャンパンはカモフラージュだったのだ。 悪趣味なシャンパンが、何らかのマジックアイテムだったとしたら、魔法の使えないルイズでも『怪しい』と気づいただろう。 しかし、ルイズはモット伯の雰囲気に飲まれていたのだ。モット泊はメイジとして強い訳ではないが、自分のキャラクターをよく知っている。 時には人に取り入って、時には人を蹴落として、今の地位を手に入れたのだ。 「いかが致しますか」 ルイズを押さえつけているメイジは、グレーのマントの仲から杖をちらつかせ、ルイズを地面に押さえ込んだまま言った。 モット伯は短く「再教育だ」と言って、気味の悪い笑顔を見せた。 あまりの気味悪さに、ルイズはありったけの罵声を飛ばそうとしたが。 「このヘンタイ!こんな事をし…………!…………!!!…………!」 ルイズの声はモット伯に届くことはなかった。 ルイズはサイレントの魔法をかけられ、まるで荷物でも運ぶかのように地下牢へと運ばれていった。 しばらくして静かになった応接間で、モット伯はルイズの杖を拾い上げると、舌先で握りの部分を舐めた。 ルイズを取り押さえたメイジはそれを見ていたが、さしたる関心を向けることなく、事務的な口調でモット泊に声をかけた。 「先ほどの娘、ヴァリエールと申しましたが」 「ああ? あれは、あのヴァリエール家の三女だ。君は知っているかね?数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の三女は、ゼロのルイズと呼ばれている」 「ゼロ、ですか」 「魔法成功率ゼロ、ゼロのルイズ。何とも愉快じゃないか。彼女は魔法を使おうとすると爆発を起こすそうだ」 「爆発?」 モット伯は、オールド・オスマンの部屋にあるものより小さい『遠見の鏡』を見る。 「この別荘には空を飛んで近づいてきていた。フライかレビテーション程度は使えるのだろうが、風を起こそうとしても、練金しようとしても爆発するそうだ」 モット泊と、グレーのマントをつけたメイジは、応接室を出て『教室』と名付けた部屋に向かう。 「『平民』の体はさんざん味わったが、『高貴な貴族』の味も味わってみたくてねぇ。あの娘は出来損ないのメイジだが、ヴァリエール家の三女だ。血統は申し分ない」 「ヴァリエール家を敵に回すことになりますぞ」 「心配はない。魔法の使えぬメイジに貴族の価値はないのだ。そうだな…『世間知らず極まりないヴァリエール家三女は、メイドを探しに危険な森の奥へと入り込み、オークに嬲り殺された』…とういうシナリオはどうかね」 「ありきたりですな」 男は、相変わらず事務的な口調で答えていた。 ルイズは牢屋の中から、周囲を見渡していた。 牢屋は二重構造になっており、通路に面した鉄格子は細い鉄棒で作られている。 牢屋の奥にはもう一つ鉄格子がある。格子の太さは屈強な戦士の二の腕ほど、格子の幅は広く、ルイズならすり抜けることも可能だろう。 奥は暗くて何も見えないが、糞便のような不快な臭いが漂ってくる。 ルイズはやり場のない怒りを発散しようとして、鉄格子を蹴飛ばそうとした。 プギィーーーッ! おぞましい叫び声と共に、鉄格子の奥から毛に包まれた腕が伸びて、その指がルイズの鼻先をかすめる。 「…………!!!」 ルイズは悲鳴を上げたが、サイレントの魔法をかけられたままなので、その声は響かない。 ブギィーーーッ!ギィーーーーッ! 不快極まりない叫び声から、奥の牢屋にいる生き物が何なのか理解できた。 二本足で歩き、人間を待ち伏せして殺すだけの知能を持ち、木の幹を棍棒として使うどう猛な獣、オークだ。 オークは、戦争の道具としてメイジに飼われることはあるが、使い魔になることはほとんどない。 平民を使い魔にした方がマシだと言われるほど、オークは嫌われている。 人間の価値観から見てあまりにも下卑、それがオークへの評価だった。 まれに長老と呼ばれる知能の高いオークもいるらしいが、噂でしかない。 この館の主人がなぜオークを飼っているのか知らないが、ロクな理由ではないだろう。 ルイズは「お似合いね」と、呟いた。 しばらくして、『教室』と名付けた部屋にモット伯が姿を見せる。 ベッドの上に寝かされ、鎖で両手足を拘束されたシエスタは、これから何をされるか分からない恐怖に包まれていた。 「待たせてしまったね」 モット伯はわざとらしく、見せびらかすように、ルイズの杖を振る。 それを見たシエスタの表情が変わった、恐怖とは違う感情がわき上がったのだ。 「さて、シエスタ!君は困ったメイドだ、由緒あるヴァリエール家の三女をひどい目に遭わせてしまうのだからな!」 そう言って、シエスタにレビテーションの魔法をかけ、荷物を運ぶのと同じようにして地下牢へと運んでいく。 地下牢に降りると、シエスタはルイズの入った牢屋の隣に入れられた。 「ルイズ様!」 「………!」(シエスタ!) ルイズがシエスタを心配して声を出そうとするが、サイレントの魔法のせいで声が届かない。 「………!」(あんた大丈夫なの?アイツに何かされてない?) 「ルイズ様…まさか、私を助けに…」 「………!」(べっ、べつにあなたを助けに来た訳じゃないんだからね。ちょっと気になっただけよ) 「そんな、私、こんな迷惑をかけてしまったなんて…」 「………!」(だーかーらー!) 通じているのか通じていないのかよく分からない会話は、奥の部屋から聞こえてきた鳴き声に中断させられた。 ブギィィーーー! ガシャン!と、鉄格子に巨体がぶつかる音がする。 身長2m、体重は400kgを超えるであろう獣の迫力に驚き、シエスタは体を硬直させてしまう。 「さて、今日は何のお勉強をしようかね。…お友達との再会を記念して、友情のお勉強をしましょう!」 そう言うとモット伯は、ポケットの中から鍵を取り出して、牢屋の奥へと投げ込んだ。 鍵はチャリンと音を立ててオークの牢屋に落ちた。 「どちらかが囮にでもなれば、鍵も外せましょう!」 囮? 冗談じゃない。オークの実物を見たのは初めてだが、その残酷さは話に聞いている。 逃げるための魔法も使えないのに、囮になるなんて考えられなかった。 ルイズは、悩んだ。 どう考えても種絶望的な結果しか導き出せないからだ。 「…ルイズ様。マントを、できるだけ大きく、振っていただけませんか」 シエスタの言葉を聞いて、ルイズは頭にクエスチョンマークを浮かべたる。 「牢屋の前でバタバタと振って下さい。オークは、ひらひらした物を見ると、それに興味を牽かれるって、お爺ちゃんが言ってました」 一片の曇りも、迷いもなく、オークを見るシエスタに、ルイズは驚いた。 ルイズにはなるべく安全な手段で囮を任せ、自分は危険な場所へと赴こうとしているのだ。 ルイズは今、杖を持っていないし、自分の味方になるメイジもいない。 しかし今ここに、誰よりも信頼できる『仲間』がいた! 絶望的な状況には変わりないのに、絶望を絶望だと感じさせない。 シエスタの勇気は、今、貴族の誇りよりも遙かに気高く、そして崇高に輝いていた。 ルイズはマントを脱ぐとシエスタの牢屋に投げた、シエスタは驚き、ルイズを制止しようとする。 「…だめです!そんな、危険なことは、私がやります!」 幸か不幸か、シエスタの声に興味を惹かれたオークは、気味の悪い声で叫びながらシエスタの牢屋へと手を伸ばした。 鉄格子をガシャンガシャンと震える。 シエスタは、自分の言葉がルイズを死地に赴かせてしまったのだと悟って狼狽えた。 しかし今更何をすることも出来ない。ルイズから預かったマントを手に取り、闘牛士のようにオークの前へとちらつかせ、必死になってオークを煽った。 ガシャン!ガシャン!と響く鉄格子の音。そしてオークの叫び声。 生きた心地のしなかったが、死んだ気にもならなかった。 ルイズは鉄格子の隙間に体を滑り込ませると、奥に落ちている鍵へと静かに歩く。 ブギィイイイイイイーー! 吐き気のするような声が聞こえてくるが、それほど気にならない。 鍵だけを見て、静かに歩く。 あと5歩。 ギィイ!ピギー! あと4歩。 ガシャン!ガシャン! あと3歩。 ブゥィイイイーーッッ! あと2歩。 ギィィィ!! あと1歩。 きゃあっ! 突然聞こえてきたシエスタの悲鳴に驚き、シエスタを見る。 シエスタはオークの興味を牽こうとして近づき過ぎたのだ。すでに片手を掴まれ、オークの牢屋に引きずり込まれそうになっている。 「やめなさい!」 気づいたときには叫んでいた。 オークの視線がルイズを捉えると、オークはその巨体からは想像も出来ない速度でルイズに接近し、ナワバリを荒らされた怒りをルイズにぶつけた。 強烈な一撃を受けたルイズは宙を舞い、鈍い音を立てて鉄格子に衝突し、力なく崩れ落ちた。 「ほっ!いい見せ物でしたな」 モット伯はそう呟くと、すでに興味は失ったのか、牢屋を後にした。 ルイズとシエスタの体を味わってやろうと思っていたが、オークに蹂躙された後では興味も失う。 オークに触れた者はオークと同じだと言わんばかりの態度で、モット伯は二人を見捨てた。 それが彼の命取りだった。 鉄格子に叩きつけられ、気を失うまでの一瞬の間に、ルイズは意識の中で誰かと会話していた。 『やれやれ…もう少し速く気絶してくれれば助けられたんだがな』 「…誰よ、あんた」 『俺のことはいい。時間がない、少し体を貸してもらう』 「あたしの体を?」 『このままじゃ助けられないんでな』 「助けるって、オークから? あんたが何者か知らないけど、出来るの?」 『ああ、任せな』 ルイズは、見ず知らずの相手に、まるで長年戦いを共にした戦友のような奇妙な感覚を覚えた。 そして「頼んだわよ」と告げて、意識を手放した。 ---- //第六部,スタープラチナ #center{[[前へ 奇妙なルイズ-11]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-13]]}
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「うーん…」 ルイズはベッドの上で目を覚ました。 どう見ても自分の部屋だ。 しかし何か違和感があった。大事なことを忘れているような気がしてならない。 ベッドから体を起こし背伸びをする。外は明るい。いつもの朝だ。 とりあえず顔を洗い、着替えて、鏡を見て身だしなみを整える。 欠伸をした時、ふと、鏡に誰かが映ったような気がした。 「…?」 ルイズは訝しげに部屋を見渡すが、自分以外は誰もいない。 目の錯覚だろう。そう考えたルイズは眠気が残ったまま部屋から出たが… 廊下を歩く同級生達と、その傍らを歩いたり飛んだりしている使い魔達を見て、 一瞬で目が覚めた。 「あーーーっ!」 ルイズの突然の叫びに一部の臆病な使い魔達が驚いているが、 同級生達にとっては、ルイズの失敗魔法ほどの驚きはなく、またかと言った表情でルイズの前を通り過ぎていった。 と、廊下にある戸がひとつ開く。中から出てきたのは褐色の美女、兼同級生、兼宿敵のキュルケだった。 「朝から騒がしいわねえ、どうしたのよ」 「…………」 放心状態のルイズにかまわず続ける。 「それにしても昨日のうちに召喚出来ないなんて残念ねえ。あ、そうそう、私の使い魔を見せて無かったわよね。この子が私の使い魔、フレイムよ」 キュルケの背後から現れたのは尻尾に火が点いた巨大なトカゲだった。 「火竜山脈のサラマンダー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「………」 呆然としながらも、視線をフレイムに向けるルイズ。 それを見てキュルケが、今度は馬鹿にした含みを持たず素直に心配する。 「ちょっとあんた大丈夫? まだ時間はあるんだから、サモン・サーヴァントが成功するまで頑張んなさいよ」 「…あんたが同情するなんて、何よ、今日は雪?」 「なに言ってんのよ。『ゼロのルイズ』がどんな使い魔を召喚するのか楽しみなのよ」 クスリ、と何かを含んだような笑みを見せるキュルケに、思わず怪しむような視線を向けてしまう。 「あ、そうそう、あんた後でタバサにお礼言っておきなさいよ。倒れてたあんたを見つけて連れてきたのはあの子と…あの子のドラゴンなんだから」 そう言って、フレイムを連れたキュルケは食堂の逆方向へと歩いていった。 サラマンダーは種類によってはドラゴンに匹敵する使い魔として、高い能力を持つと教わった。 きっと、フレイムを見せびらかすために遠回りして食堂に行くのだろう。 それに比べて自分は使い魔を持つどころか、召喚に失敗。 その上ドラゴンを召喚したメイジもいると聞いて、あまりにも情けない自分に目眩がした。 朝食を取るために食堂に入る。もう既にほとんどのメイジ達は席に着いていた。 先生と生徒を含めた沢山のメイジ達が、ひとときの談笑を楽しんでいた。 周囲から聞こえてくる会話は使い魔の話ばかり。 今年はどんな種族が多かったとか、一番強そうなのは何だとか。 上級生である3年生は使い魔の値踏みを。 下級生である1年生は、使い魔を召喚した二年生への憧れを話し、 同級生である2年生は自分の使い魔自慢をしている。 召喚出来なかったルイズは、自分がバカにされるのを覚悟していたが、 皆自分の使い魔のことで頭がいっぱいらしく、自分のことを噂しているような声は聞こえなかったが、なぜか寂しい気がした。 しばらくして、朝食を終えた生徒達が教室へ移動を始める。 ルイズも教室へと移動し、適当な席に座った。 教室にはクラスメイトが召喚した様々な使い魔達がいて、少し騒がしい。 しばらくすると、土系統のメイジであり教師でもある『赤土のシュルヴルーズ』 がやって来て、授業が始まった。 授業は一年のおさらいと、練金に関する内容だった。 『火』『水』『土』『風』『虚無』 この手の話は、何度も何度も聞かされていた。 もう使い手の居ない伝説の属性『虚無』 ある者はそれに憧れ、ある者はそれを伝説だと笑う、 『ゼロのルイズ』とあだ名されるルイズにとって、『虚無』の魔法が伝説だと言われ笑われるのが、自分への皮肉にも聞こえた。 授業は進み、退屈な時間が過ぎていき… ルイズは、机に突っ伏して眠ってしまった。 『………!』 『…倫……』 『…!……徐………倫…!』 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「授業中の居眠りとは何事ですか!」 突然の声に驚き、ルイズは飛び起きた。 こっちを睨んでいる声の主を見て、自分が居眠りしていたことに気づき、ルイズは慌てて謝った。 「す、すみません!」 「…それに、なんですか、その顔は。 練金をあなたにやってもらおうと思いましたが、それ以前の問題ですね。 早く顔を洗ってらっしゃい」 「はい…」 力なく答えて教室を出て水場に行く。水場に備え付けられた鏡で顔を見て、 やっと自分が泣いていたことに気付いた。 なんで泣いたのか分からなかったが、一つだけ思い当たることがあった。 夢の中でルイズは誰かと闘っていた。 その戦いの中で、敵を倒すか、娘を助けるかの二者択一を迫られたのだ。 一瞬の葛藤。けれども深い葛藤の末に、娘を助けることを選んだわたしは、 敵に切り裂かれて…そこで目が覚めた。 この涙は、敵を倒せなかった無念ではなく、娘の無事を願っていたのでは… 思わず涙を流しそうになり、それを誤魔化すかのように顔を洗った。 前へ 目次 次へ
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん あぁ。やっぱり今日は、あまりにも運が良い方に向いてこない。 一人で片付けるはずだった問題に三人もの異分子が紛れ込み、個人的に歓迎できない事態へと変化している。 他人というのは好きでもないが嫌いでもなく、まぁ自分がイラつくような事をしなければ危害を加えたりはしない。 もしも自分の邪魔をしたり過度のちょっかいを掛けてくるというのならば、それ相応の対応をとるだけのこと。 しかし悲しきかな、今の自分をイラつかせる相手は…下手な行動一つで死んでしまうかもしれないのだ。 (そのまま座ってなさいよ…!っていうか、何で後ろに下がろうとしないの?) 自らが直面している状況に憤慨の思いを吐露しつつ、霊夢は心の中で祈りを捧げている。 彼女に安全祈願を向けられているのは、ワザワザ自分から危険な事をしようとしているルイズであった。 先程、唐突な奇襲を仕掛けてきた偽レイムのすぐ横にいる今の彼女は、いわば大きな爆弾。 油で塗れた導火線に火がつき、大爆発を起こす様な事があれば今よりも更に面倒くさい事になってしまうだろう。 無論霊夢自身も下手に動くことができず、相手の動きを観察している。 そして火種である偽レイムはというと、光り輝く赤い目で霊夢を凝視し続けていた。 まるで油の切れたブリキの人形みたいに少し身構えた姿勢のまま、本物である彼女がいた場所に佇んでいる。 ナイフを投げ捨て、素手で殴り掛かってきた事には驚いたが、今では驚く暇も無い。 馬鹿みたいな冷静さを纏わせたその顔と目と…そして体からの気配を察知した霊夢は、改めて思った。 コイツは危険だ。早いうちに何とかしないと命に関わるぞ―――と。 「とはいっても…今の状況で動いたらルイズだって動くだろうし」 しかし霊夢はそれでも攻撃を仕掛けようとは思わず、右足の靴でトントンと地面を叩きながらどうしようかと思考する。 お札や弾幕と違い、慣れない武器を使ってアレを短時間で倒せるとは思えず、ましてやあのルイズが近くにいるという状況。 下手に接近したら巻き込まれるだろうし、何より爆発しか出せない彼女の魔法は危険なのだ。 ぶっ倒してやると意気込んで突撃し、無駄な死で人生の終わりを迎えたくは無いのである。 「かといってこのままだとルイズが勝手に攻撃しそうなのよねぇ」 いよいよもって立ち上がろうとするルイズの姿を見て、彼女はうんざりしたと言いたげにため息を突く。 この年の四月に始まり、今もなお続く幻想郷での異変を引き起こした名家生まれの末っ子の少女。 彼女が下手に動いて死ぬような事があれば、元から難しい異変解決は更に難易度を増す。 (このままじゃ埒が明かないしし…性に合わないけど、突っ込んでみようかしら?) ナイフを握る手に力を込め、待ちかまえる相手に切りかかってみようかと思った。その瞬間であった。 「ファイアー…ボール!」 偽レイムの後ろから、艶やかな女の声が呪文としての形を成して聞こえててくる。 一体何なのかと思ったか、偽レイムとルイズがハッと後ろを振り向いた瞬間、両者共に驚愕の表情を浮かべた。 そんな二人の近くにいた霊夢も、先の二人と同じ様な表情でもって飛んできた『ソレ』を凝視する。 彼女らの方へと真っ直ぐに飛来してくる『ソレ』の正体…それは轟々と燃える、大きな火の玉であった 牛の頭程の大きさの物体が、燃え盛りながら突っ込んでくる。 『ファイアー・ボール』…それは四系統ある内で、最も戦いに優れると言われる火系統の魔法。 放ったメイジの力にもよるが並み以上の者であれば、この魔法はかなり恐ろしい武器へと変貌する。 「っ…!」 「きゃっ」 当たったモノを焼き尽くすかのような極小サイズの太陽が、こちらへと飛んでくる。 それを先に理解したのは偽レイムであり、彼女はその場で地面を蹴って勢いよく横へと跳ぶ。 一方、立ち上がったばかりのルイズは偽レイムほど体が動かない為か、小さな悲鳴を上げてもう一度地面に倒れた。 実技はてんで駄目であるが座学には自信がある彼女は、ファイアー・ボールが怖ろしい魔法だと知っている。 流石に自分を狙っているワケは無いと思ってはいたが、直撃する可能性は大いにあった。 だからこそ地面に倒れたのが、結果としてその選択肢が彼女の命を救ったとも言っていいだろう。 二人の人間に避けられた火の玉は真っ直ぐに…その先にいる霊夢目がけて飛んでいく。 妖怪退治や異変解決をこなしてきた彼女も、流石にこの時は驚かざるを得なかった。 何せ大きな火の玉がかなりの速度で飛んでくる。それに対し彼女の勘が先程よりも凄まじい警鐘を鳴らしている。 「ちょっ!まっ…!」 慌てたような声を上げつつその場しのぎの結界を貼り、何とかその玉を跳ね返そうとする。 ある程度の疲労が溜まっていた上に火の玉の速度も速い故、回避が間に合わないと判断したのだ。 しかし、僅かな時間でくみ上げた薄い結界は、火の玉を防ぐという役目を果たす事はなかった。 何故なら火の玉は、霊夢の結界に当たるまで後一メイルというところで急に止まったのだ。 まるで走っている馬車の手綱を引いて急ブレーキを掛けたかのように、ぐっとその球体が大きく揺れる。 突然の事に霊夢がキョトンとした表情を浮かべる暇もなく、ストップした火の玉がゆっくりとバックし始めた。 一体何事かと思った瞬間、火の玉の速度が再度上がり、先程避けた二人の内一人の方へと飛んでいく。 その一人こそルイズよりも先に相手の攻撃を察知し、回避していた偽レイムであった。 「なっ…くっ!」 先程と同じ勢いでこちらに突っ込んでくる火の玉を見て狼狽えたのか、彼女の目が一瞬だけ丸くなる。 しかしすぐに元に戻ったかと思うとその場で軽く身構え、火の玉を迎え撃とうとする。 その様子を見て何か可笑しいと思ったのだろうか、偽レイムに向けてこの場にいる一人が声を上げた。 「残念ですけど。私のファイアー・ボールはいくら避けても無駄でしてよ」 艶やかな声と、火の玉と同じ色をした赤く燃えるような色のロングヘアーに褐色の肌。 その特徴を持つ彼女―――キュルケがそう言った直後、小さな爆発音が周囲に響き渡る。 地面に倒れていたルイズがそちらの方へ向けると、すぐ後ろで黒い煙がゆっくりと薄暗い空へと上っていく。 まるでそこだけ切り取ったかのように煙が立ち込める場所は、身構えたばかりの偽レイムが立っていたところ。 つまり、原因は知らないが偽レイムとぶつかったファイアー・ボールが爆発したのだと考えるのが妥当だろう。 「あらあら、どうしたのかしらヴァリエール?また倒れるくらいにここの地面が好きになった?」 そんな時であった、思わぬ援護をしてくれたキュルケが声をかけてきたのは。 明らかに挑発と取れるそれにルイズはムッと表情を見せると上半身だけを地面から上げ、口を開く。 「この馬鹿ツェルプストー!下手したらアタシが火達磨になるところだったじゃないの!?」 「御免なさいねヴァリエール。貴女は見た目通りに素早いから避けてくれると思ったのよ」 「…それって、アタシが小さいって事かしら?」 甲高いルイズの抗議に対し、勝者の余裕を見せるキュルケは前髪をかき上げつつ言葉を返す。 助けられたのは良いが同時に馬鹿にされている事に、ルイズの表情は険しくなっていく。 親友であり好敵手である彼女の顔色を見て、キュルケはふぅ一息ついた。 「全く、せっかく助けてあげた私に文句垂れるなんて…貴族としてのマナーが成ってないわね」 「いやいや、当たったら火達磨になるような魔法をぶっ放されたら誰だって怒るぜ?」 見事なまでに自分の行いを棚に上げるキュルケに、横にいた魔理沙が静かに突っ込みを入れる。 黒白の魔法使いの顔に喜びの色が浮かんでいる事から、キュルケのファイアー・ボールを見れたことに満足はしているようだ。 それで今更と言わんばかりに突っ込むその姿は、裁判所の証言台で犯人を非難する元共犯者である。 自分の事を擁護してくれたが、キュルケを止めようともしなかった魔理沙を睨みつつ、ルイズは苦言を漏らす。 「マリサ。…言っとくけどそんな顔してキュルケを非難しても、全然嬉しくないわよ」 「私は自分の感情に素直な人間だからな。キュルケの魔法を見れてついつい喜んでるだけだよ」 「あら、以外と面白い事言うじゃないの?いいわねぇ、キライじゃないわそういう性格」 「…先に言っとくが、私にそういう性癖は無いからな」 「ちょっと!私を置いて何二人で和気藹々と話し合ってのよ!」 勝利の後のムードを漂わせる二人の間で板挟みとなるルイズの叫び。 それを離れた所から見つめている霊夢一人だけが、目を細めて警戒し続けている。 (よくもまぁ、あんなに騒げるわね。まだ終わってもいないというのに…) 彼女は既に気づいていた。あの程度の攻撃ではまだヤツを仕留めきれないと。 何せ自分と瓜二つなのである。それならば、キュルケの魔法でやられるとはそう考えられない。 いつでも動けるようにと身構えた姿勢を崩さぬ彼女であったが、そんな時に限って邪魔が入るものだ。 「私がうまく避けられたからいいものの、下手したらトリステインから永久追放されてたわよ!?」 「それって私たち以外の第三者でもいないと無理じゃないかしら?」 「確かにそうだな。下手に喋って共犯者扱いでもされたら堪らないぜ」 「ちょっと待ちなさい。さっきのアンタはどう見ても、キュルケの凶行を許した共犯者じゃない?」 「まぁアレだよ。どっちにしろお前は怪我一つしなかったし、結果的に問題なしという事で…」 多少の安心感を取り戻したルイズが怒鳴り、キュルケと魔理沙はマイペースで彼女の相手をする。 一見、ちょっとしたガールズトークをしているようにも見える中、霊夢が一人呟く。 「そんなにお喋りしたいなら、このまま帰ってくれると有難いんだけどねぇ…」 変に盛り上がり始めたルイズ達の耳に入る巫女の言葉は、氷水のような冷たい雰囲気を放っていた。 場の空気を白けさせるような彼女に対し、背中を見せていたキュルケがゆっくりと振り返る。 「ちょっと~、一人放置されてるからって拗ねるの…は―――――…ッ!?」 大方挑発でもしてみようかと思っていた彼女の顔が突如として、驚愕の色に染まる。 そして、急に言葉が途切れた事に不思議がった後の二人もそちらを見やり、同じ反応を見せた。 「嘘でしょ…あんなの喰らって…まだ…」 目を見開き、小さな両手で口を押えたルイズに同調するように、魔理沙も口を開く。 「流石霊夢とそっくりなだけあるぜ。往生際の悪さまで同じとはな…」 似すぎるのも問題だな。最後にそう言い加えた魔法使いの苦笑いは、場の空気を読んでいた。 薄くなる黒煙の中、霊夢が目にしたのは赤く光る双眸であった。 どうやら攻撃してきたキュルケではなく、自分を優先的に殺したいのだと彼女に自覚させる。 「成る程…今のアンタにとって、他の三人はもう視界に入らないってことなのね」 ゆっくりと空に舞い上がっていく煙の奥にいるであろう相手に、博麗の巫女は囁く。 それを合図にしてか、しっかりとした歩みで煙の中から゛彼女゛は再び霊夢の前に現れた。 両の拳を青白く光る結界で覆い、煤けた巫女装束と頑丈なロングブーツをその身に纏った霊夢と瓜二つの少女。 ただ一つ違うところは赤く光る両目と、頭に着けたリボンが無くなっているという事だ。 前者は元からであったが、後者の方は恐らくキュルケの魔法を防いだ代償として消し飛んだのだろう。 年相応とは思えぬ彼女の力の一部を正面から喰らったうえでそれだけで済むならば、安いものかもしれない。 しかし、その代償を支払ったことにより彼女――――偽レイムの印象は本物と比べ大きく変化していた。 先程までリボンで拘束され、ようやく自由を得た黒髪がサラサラと風に揺られている。 まるで黒いカーテンの様に波打ち模様を見せる髪に霊夢は何も言わず、ナイフを構える。 すると不気味に光り輝いているガンダールヴのルーンがより強く輝き、彼女の顔左半分を青白く照らしつける。 …武器を取れ―――構えろ―――斬りつけ、倒せ――― 頭の中で性別不明としか言いようのない声を聞きな゛から、霊夢はひとり「言われなくても…」と呟く。 これ以上事態が悪化すれば面倒な事にもなり得るし、何よりルイズたちという厄介な存在もいる。 だからこそ彼女は決意した。今手に持っている武器を用いて、勝負に打って出てやると。 彼女の動きにつられて偽レイムも腰を低くしたところで、霊夢は行動に出た。 「そこまでして私と戦いたいというのなら、こっちから相手してやるよ」 最後の警告と言わんばかりの言葉を吐き出した霊夢は、ナイフ片手に突撃した。 対する偽レイムも、結界に包まれた左手にグッと力を入れた後、地面を蹴飛ばすようにして跳躍する。 離れた所から見ていたルイズたちハッとした表情を浮かべ、両者の決着を見届けようとした。 その瞬間であった。まるで見計らったように霊夢がその場で足を止めて、飛び上がったのは。 偽者とは違って能力によって足が不自然に地面から離れ、スッと跳び上がった偽レイムの方へと飛んでいく。 次いで左手のナイフを逆手に持ち替えると空いている右手を前に突き出し、左手を腰元に寄せて力を入れる。 ふと顔を上げれば、自分よりも高く跳んだ偽レイムが交差した両腕を光らせ、こちらに向かって落ちてくるのが目に入る。 ガンダールヴのルーンが光る左手により一層の力を込めた霊夢はその場で動きを止め、逆手のナイフを勢いよく振り上げる。 それと同時に偽レイムも左の拳を勢いよく振りかぶり、本物の頭へと力強く殴り掛かった。 昼方から夕暮れまでの、数時間通して続いた巫女とミコの戦い。 その決着はあまりにも一瞬でつき、そしてあまりにも納得の行かない終わりを迎えた。 既に陽が落ちかけ、赤と青の双月が大陸の空へ登ろうとしているこの時間。 人が消えた旧市街地へと続く入り口で、パッと赤い花びらの様な血が飛び散った。 まるで情熱を具現化させたような真紅の薔薇と同じ色の体液が、薄暗い空に舞い上がる。 それに混じるかのように、おおよそ空を飛ぶとは思えぬ五本の突起物を付けた丸い物体がクルクルと回転しつつ、地面に落ちていく。 妙に柔らかく、それでいて生々しい嫌な音を立てて落ちてきたのは―――――人間の゛左手゛。 手の甲に穴が空き、そこと切られた手首部分からドクドクと赤いを血を流す、彼女の一部゛だった゛モノ。 ついで浮き上がっていた血の雨が地に落ち、ぴたぴたぴた…と雨の様な水滴音を奏でている。 嫌というほどルイズたちの耳に赤い雨の音が入ってきて数秒後であった。――――偽レイムの叫び声が聞こえたのは。 「ウワァァアアッ…!!ウゥ…アァアアアアッ…―――――!」 おおよそ少女の上げる叫びとは思えぬ程、それは痛みに泣きわめく悲鳴ではなく、むしろ堪えようとして上げる怒号に近い。 相手に手首から下を切り落とされた彼女はそこを右手で押さえつつ、彼女は涙すら流さず叫び声を上げている。 今の彼女を真正面から見ている者がいたのならば、これ程不気味な光景は滅多に無いと感じた事であろう。 そして今の自分が完全に不利だと悟って撤退しようとするのか、偽レイムは呻き声を上げつつも弱々しく立ち上がる。 本来ならば生死に関わる致命傷のうえに、左肩に刺さったままのナイフを通して流れる血の量も含めれば、いつ死んでもおかしくはない。 それでも彼女は立ち上がると左肩のナイフをそのままに、よろよろと歩きながら近くの路地裏へと向かっていく。 足をもたつかせ、夜の帳に包まれた狭い隙間へと逃れるその身を見つめる者は、誰一人としていない。 何故なら今のルイズたちには、それよりも先に気になる者を見つめていたのだから。 そう…偽レイムの左手を切り落とす直前に、彼女に頭を殴られ血を流す博麗霊夢の姿を。 「れ…レイム…」 鳶色の瞳を丸くさせたルイズは丁度自分たちの足元で着地し、その場に腰を下ろしている巫女に、恐る恐る声を掛ける。 震える声で自らの名を呼ぶ彼女に、頭から血を流し続ける霊夢は力の籠っていない声でぼそぼそとした言葉を返す。 「想定外だったわ。まさか…瞬間移動する…霊力も残ってなかったなんて……ね…」 「だったら最初からスペルカードなり使っとけば、そんな大けがしなくても済んだんじゃないか?」 その顔に自嘲的な笑みを浮かべて喋る彼女に、今度は魔理沙が口を開く。 気取ろうとしているがルイズと同じように声が震え、その腕が彼女の体を支えようと前へ前へと動いている 左手から力を抜き、握ったままのナイフを地面に落とした霊夢は、そんな魔法使いにも声を掛ける。 今まで光っていたガンダールヴのルーンはいつの間にか既にかその輝きを失い、ただのルーンへと戻っていた。 「相手が相手よ…上手く避けられて…返り討ちに、あったら…元も子も無いじゃないの…」 「…っというか、最初から全部話してればこういう事にはならなかったでしょうに?」 「ばか…言う、んじゃ…――ない、わよ…」 ルイズたちの後ろから聞こえてくるキュルケの横槍に、霊夢は苦々しい言葉を贈ろうとする。 しかし、偽レイム程でもないがそれなりの怪我を負った彼女には、これ以上喋る力は残っていなかった。 「アンタたちと、一緒なら……まだ、一人の…方が…―――――」 せめて最後まで言い切ろうとした直前、かろうじて開いていた瞳がゆっくとり閉じ、霊夢は意識を失った。 ルイズは悲鳴の様な声を上げて彼女の名を叫び、箒を落とした魔理沙が倒れ行く巫女の体を支える。 流石の魔法使いもこの時ばかりは焦った表情を浮かべ、霊夢の名を呼んでいる。 残されたキュルケは、今になって偽レイムがいなくなった事に気づくが、それは後の祭りというモノ。 ほんの少しだけ驚いた表情を浮かべて辺りを見回すが、もう何処にもいないと知るやため息をつく。 今の彼女は何処へ消えた得体の知れぬ偽者よりも、目の前の三人の事が知りたかった。 生まれた時から好敵手であり、これまで学院で何度も戦ってきたヴァリエール家の末女であるルイズ。 しかし彼女は変わった。自分の目に入らぬ場所で好敵手は、今や得体の知れぬ少女の一人と化していた。 彼女は知りたかった。先祖から続く因縁の相手がどういう状況にいるのか。 視界を覆う濃霧の様な幾つもの謎を振り払い、自分の近くで何が起きているのか知りたい。 それは人間が本来持つ好奇心を人一倍強く持って生まれた、キュルケという少女の望みであった。 しかし、今ここでそれを問いただすという事をする気も無かった。 生まれてこの方、ある程度好き放題に生きてきた彼女でもこの場の空気を読めてないワケではない。 「全く、こんな状況で流石に根掘り葉掘り聞くってワケにいかないわよね?」 そんな事をルイズたちの後ろで一人呟きつつ、彼女はこれからどうしようかと考え始める。 そんな時、彼女の耳にこの場では似合わぬ声が聞こえるのに気付き、すぐに振り返る。 日も暮れて、初夏の暑い熱気が涼しい冷気へと変わっていく旧市街地。 自分たちよりも一人頑張り、そして傷ついて倒れた巫女の名が響き渡る中… 振り返ったキュルケが目にしたものは、こちらへと駆けてくる衛士たちの姿であった。 時間をほんの少し遡り、数分前――――― キュルケが偽レイムへファイアー・ボールを放つ前の出来事――――― 珍しくジュリオの気分は高揚していた。初めて目にする存在を前にして。 ましてや、それが国を傾かせる程の容姿を持つ美女の形をしているのなら尚更であった。 場所が場所ならちょっと一声掛けていたかもしれない。彼はそんな事を思いつつ、女に話しかける。 「こんなにも良い夜に会えるなんてね。正にグッドタイミング…って言葉が似合うかな?――無論、君にとってもね」 「あぁそうだな。私は人間に好意を抱く程度の良心を持ち合わせてないがね?」 ジュリオの前に佇む美女、八雲藍は突き放すかのようにキッパリ言うと、一息ついて喋り始める。 「あまり時間を取りたくないので単刀直入に聞くが―――アレはお前たちの差し金か?」 「…二人目の゛巫女゛の事だろう?残念だけど、僕としてもあんなのは想定外だったよ」 藍の質問に彼は首を横に振った後、その場から右に向かって歩き始めた。 履いている白いロングブーツが石造りの床を当蹴る音は、静寂漂う夜の中では不気味な雰囲気を漂わしている。 だがそれを゛小さくした゛耳で聞いている藍には何の効果も無く、むしろジュリオに対しての警戒を一層強めた。 「ホント困るよね。あぁいう細部までそっくり…ていうのは、遠くから見ると本当にわからないんだ」 場の空気が悪い方へ進んでゆく中で、ジュリオは先程の質問をそんな言葉で返す。 しかし、それは予想の範囲内だったのだろうか。藍はあまり疑うことをせず次の質問を投げかける。 「まぁそうだな。そこはひとまず同意しておくとして…お前はなぜ足を動かしている?」 「だって立ちっぱなしだと足が棒になってしまうだろう?別に何処かへ行こうってワケじゃない」 大げさそうに両腕を広げながらそう答えた彼に、藍は首を傾げつつもこう言った。 「そうかな?じゃあ、お前の歩く先に扉が見えるのは私の目の錯覚という事になるが…」 ―――生憎健康には自身がある。最後にそんな言葉を付け加えた直後、ジュリオは微笑みがら言葉を返す。 「別に逃げるっていうワケじゃないけどさぁ…まぁ今日はこのくらい―――ッという事で!」 言い訳がましい言葉を口から出し終えた直後、彼は唐突に地面を蹴って走り出した。 まるで天敵から逃げるウサギとも思える彼の行く先には、屋上から建物の中へと続く扉がある。 幸いにも扉は開いており、下の階へと続く階段が彼の目に映っている。 (あと一メイル―――…ッ!) ほんの少しで屋上から屋内へ入れるというところで、背筋に冷たい物が走った。 まるで首筋に刃物突き付けられた時の様に、その場で足を止めろと自身の本能が暴れ叫ぶ。 しかし一度走り出してすぐには足を止められる筈もなく、やむを得ずその場で倒れ込んだ。 階段まであと数サントというところの位置で倒れ込んだ彼の眼前に、三本もの赤い刃物が地面に深々と突き刺さっていた。 ナイフにしては極端と言えるほどに菱の形をしたそれ等は、稀に東方の地から輸入される暗殺用の武器と瓜二つである。 ジュリオ自身仕事の関係で何度か目にしてはいたが、目に良くない影響を与えそうな程毒々しい赤色ではなかった。 「お前、人間にしては中々良いじゃないか」 倒れ込んだ自身の背中に掛けられる、藍の冷たい声。 それに反応したジュリオはついつい頭だけを後ろへ向けた瞬間。彼はあり得ないモノを目にしてしまう。 奇妙な帽子を被っている頭にはイヌ科の動物と同じ耳と、臀部からは九本もの狐の尻尾が生えていたのだ。 金色の髪の中に紛れ込むようにして出ている耳は、尻尾を見れば狐のモノだとすぐにわかる。 そして尻尾の方は女の美貌に負けぬくらい立派であったが、何処か怖ろしい雰囲気が漂ってくる。 まるで今までボールだと思っていた物が爆弾だったのだと気づいた時のような、体中の毛が逆立つ恐怖。 ジュリオはそんな恐怖を今、僅かながらに目の前の彼女から感じ取っていた。 「驚いたよ…薄々勘付いてはいたが、まさか本当に人間じゃあ無かったとは」 無意識の内に口から出たその言葉を、九尾としての正体を見せた藍はその場から動かずに返す。 「勘が良いな。大抵の人間は、単に小さくしただけの尻尾と耳にすら気づかないモノだが…」 「仕事の都合上、動物とは付き合いがあるからね。君の体から漂ってきた獣特有の臭いでただモノじゃないと思っただけさ…」 頭に生えている狐耳をヒクヒクと軽く動かす彼女に、ジュリオは笑いながら言う。 しかし彼の口から出た「獣特有の臭い」という言葉に彼女は表情を曇らせ、九本の尻尾が不機嫌そうに揺れる。 「お前の言う通り、見た目から判断すれば獣の物の怪だが…あまり狗や狸の類と一緒にしないでくれ」 意外にも身近な動物の名を耳に入れながらも、藍の苦言に「わかった、わかった」と言いつつ、ジュリオは立ち上がる。 階段まで後少しというところだが、警戒されている今動けば碌な目に遭わない事は、火を見るよりも明らかだ。 「…で、僕は何も知らないし、君たちと話すことは今は無い。―――そんな僕に、君は用があるんだね?」 少し砂埃がついたズボンを手で軽くはたきつつ、そんな事を聞いてみる。 その質問に九尾の女は油断するような素振りを一つとして見せず、居丈高な素振りでもって返す。 「別に私とてこれ以上聞くことは無い。ただ、少しだけ顔を合わしてもらいたい゛お方゛が一人いるだけだ」 彼女の返答に一瞬だけ怪訝な表情をを浮かべたジュリオだったが、すぐに笑みが戻ってくる。 だがそれに良くないものを感じ取ったのか、若干心配性な彼女の方が怪訝な表情を浮かべてしまう。 「ん…おいおい?何をそんなに怖がってるのさ」 両手を横に広げた彼の言葉に、それでも油断はできぬと判断した九尾の顔は、未だに硬くなり続ける。 そんな彼女と対面しながら、先程逃げようとした者とは思えぬ態度でもって、ジュリオは喋り続けた。 「まぁ突然表情を変えて、すぐに戻したのには理由があったんだよ。君はおろか、僕にとっても単純な理由がね?」 言い訳にもならない弁に藍は「理由?」と首を傾げ、ジュリオは「そう、単純な理由」と返す。 そして彼曰く゛単純な理由゛を口から出す為か一回深呼吸死をした後… 言葉にすれば、短いとも長いとも言えぬ゛理由゛を、彼は告げた。 「僕にもいるんだよ。君たちの様な【異邦人】と話をしたい、とても大切な゛お方゛が」 ―――――その瞬間であった。旧市街地の方角から、小さくも耳をつんざく爆発音が聞こえてきたのは。 獣の耳を持つがゆえに音に敏感な藍は唐突な音に目を見開き、その身を大きく竦ませる。 ジュリオもまたビクッと体を震わせ、驚いた表情を浮かべつつも、音が聞こえてきた方へと目を向けた。 先程まで霊夢達がいたであろう旧市街地の入り口周辺から、黒い煙が上がっていた。 彼に続いて顔を向けた藍もまたその顔に驚愕の表情を浮かべ、旧市街地の方を見つめている。 「あれは…!」 「おやおや。思ってた以上に、彼女たちは派手好きなようだ」 無意識に出たであろう藍の言葉にそう返しつつ、彼は右手に着けた手袋を外そうとする。 左手の人差指と親指で白い手袋の薬指部分だけを摘み、勢いよく上とへ引っ張る。 たった二つの動作だけで行える行為の最中にも、藍は気にすることなく旧市街地の方を見つめていた。 相手がこちらに気づいていない事を確認してから、彼は意味深な笑みを浮かべつつ、口を開く。 「しかし、あれだけ派手だと直にここも騒がしくなる。どうだい?今日はお互い、ここで身を引くという事で…」 「…っ!何を―――――…ッッッ!?」 ―――――言っている。再び自分の方へと振り向こうとする藍が全てを言い終える直前、 ジュリオは右手の゛甲゛を静かに、彼女の目に入るよう見せつけたのだ。 その瞬間であった。藍の目が見開いたまま止まり、言葉どころかその体の動きさえ停止したのは。 まるで彼女の体内時計のみを止めたかのように微動だにせず、ジュリオの右手の゛甲゛を見つめている。 否、正確に言えば…その甲に刻まれた゛光り輝くルーン゛を見て、彼女の体は止まったのだ。 「言っただろう。僕は仕事の都合上、動物との付き合いがあるって」 ジュリオは一人喋りながら、左手の人差指で右手の゛ルーン゛を軽く小突いて見せる。 まるで蛇がのたくっている様にも見えるソレは青白く光り、薄闇の中にいる二人を照らしていた。 「バケモノであれ何であれ…少なくとも君が動物だったという事実は、僕にとって本当に良い事だよ」 何せコイツを見せれば、すぐに逃げられるんだから。余裕満々のジュリオがそう言い放つと同時であった。 フッと意識を失った藍の体が、力なく前に倒れ込んだのは。 まるで激務の後にベッドへ横たわるかのように、その動作に何ら不自然性すらない。 ただ一つ、ジュリオの右手に刻まれた゛ルーン゛を見てしまった―――という事を除いて。 そのジュリオ自身はフッと安堵のため息をついて藍の傍へ寄るとその場で中腰になり、ルーンがある右手を彼女の前にかざす。 手袋の下に隠していた白い肌と゛ルーン゛を露わにした右手でもって、規則的で生暖かい息吹きに触れる。 ついで彼女の表情がゆったりとした寝顔を浮かべている事を確認した後、ゆっくりとその腰を上げる。 既に陽が三分の二も沈み、空に浮かぶ双月がその姿をハッキリと地上に見せつけ始めていた。 幼いころから見慣れてきたその空を眺めつつ、ジュリオは一人呟く。 「もう少し待ってててくれよ。君たちはともかく、僕たちにはもう少しだけ準備する時間が欲しいんだ」 君たちから離れはしないけどね。そう言って彼は踵を返し、ドアの方へと歩いていく。 昼の熱気を消し去るような涼しい夜風を身に受け、何処かから聞こえてくる馬の嘶きを耳に入れながら。彼はその場を後にする。 まるで初めからこうなるべきだと予想していたかのような、優雅な足取りで。 地上に初夏の熱気をもたらした陽が沈み、ようやく夜の帳が訪れてきたチクトンネ街。 昼頃の暑さが日暮れとともに多少の鳴りを潜め、涼しい風が吹いてくるこの時間。 今宵もまた、ここチクトンネ街は夜の顔とも言える部分をゆっくりと出し始めていた。 そんな街の中心を走る大通りの隅を歩きながら、二人の少女が楽しそうに談笑していた。 二人の内一人…腰まで伸ばした黒色の髪が街頭に照らされ、艶やかな光を放っている。 もう一人はボブカットにしており、一目見れば長髪の少女と比べ何処なく控えめな性格が垣間見えていた。 「…でさぁ、一通り見たんだけど…あのカッフェって店はそう長く持ちはしないだろうね!」 「はぁ…そう、なんだ…」 長髪の少女、ジェシカは大声で喋りながら、ボブカットの少女で従姉のシエスタの肩をパンパンと軽く後を立てて叩く。 ジェシカとは違い大人しい所が目立つ彼女は、自分の従妹の大声が迷惑になっていないか気にしているようだ。 実際繁華街と言ってもまだこの時間帯に騒ぐような人はいない為か、何人かが自分たちの方をチラチラと見ているのに気づく。 そんな事を気にしながらも、大人しい彼女は大声で喋る従妹の言葉に適度に相槌を打っている。 別にジェシカ自身酒で酔っているワケでも無く、どちらかと言えばそういうのに強い少女だ。 単に彼女が目立ちたがり屋なのと、そうでなければいけない仕事をしている関係でその声が大きいのだ。 一方のシエスタは騒がず目立たずお淑やかに努めるよう心掛けているので゜、二人の性格は正に正反対と言っても良い。 だからだろうか、他人から見れば酔っぱらったジェシカが素面のシエスタに絡んでいるようにも見えた。 「話に聞けば老若男女誰でも気軽に入れるって宣伝してるけど、出してる品物は若者向きなんだよ」 「そりゃあ…あそこは、結構若い人たちとかが住んでるし…」 人目を気にせず笑顔で喋るジェシカはシエスタの肩を叩きつつも、世間話を楽しんでいる。 大事な家族であり放っておけないくらい魅力的な従姉は苦笑いを浮かべて、そんな言葉を返す。 そんな彼女にジェシカは「わかってないなぁ…」と呟いて首を横に振ると、自分の言いたい事をあっさりと口に出した。 ここやブルドンネ街を含めたトリスタニアには、色んな人たちが色んな目的を持って街中を移動する。 そういう場所ではあまり下手な事を表立ってしてはいけず、注意しなければいけない。 「…例えばさっき話したように、老若男女誰でも入れるといって若者向けの料理とお茶しか出さない店がそうさ」 彼女はそこで一呼吸おいて話を中断し、隣にいるシエスタの反応を少しだけ伺ってみる。 従姉の顔は相変わらず苦笑いであったが、話自体に嫌悪感や鬱陶しさを感じていないのがすぐにわかった。 これは続けても良いというサインか。一人でそう解釈したジェシカは口を開き、先程の続きを始めた。 「まぁあそこで出してる東方からのお茶っていうのが、は割とお年寄り向けとは聞くけど…それ以外はてんで駄目だし なにより、あの店の内装も今時の子をターゲットにした感じの作りなんだから。本当、矛盾に満ちた店だったわ。 でも料理とかデザートは割と美味かったのは足を運んで良かった~…とは思ったけどね。それとこれとは話が別というものよ。 とにかく、私が言いたいのは老若男女何て言う曖昧な嘘じゃくなてハッキリと、若者向けの店ですって宣伝すればいいという話!」 わかった?最後にそう言い放ち、自信に満ちた表情を横にいるシエスタへと向ける。 恐らく優しい従姉は「そんなヒドイ言い方は…」と苦言を漏らすに違いないがまぁそれも良いだろう。 久しぶりに会えた上に一日中二人きりっで遊べたのだ。せめて見送る最中にこういうやり取りをしても罰は当たるまい。 …とまぁ、そんな事を考えながら振り向いたジェシカであったが、横にいたシエスタは彼女の顔を見てはいなかった。 ジッと前方を見据えたままその場で足を止めた彼女の表情には苦笑いではなく、怪訝な色が浮かんでいる。 「ジェシカ…あれ…」 どうしたのかと聞く前にシエスタはポツリと呟き、少し進んだ先にある大きな十字路を指差した。 それにつられたジェシカも顔を前に向けると、従姉が足を止めた理由が、なんとなく分かったのである。 ついで彼女自身も怪訝な表情を浮かべ、視線の先にあるいつもとは違う通りの様子を見て、一人呟いた。 「何だいアレ…あっ、衛士隊の馬車…?何でこんな所に…?」 二人の視線が向けられた先にある大きな十字路の前で、多くの人たちが足を止めていた。 その理由はジェシカ口にした通り、この街の平和を守っている衛士隊御用達の馬車が堂々と通りを移動していた。 トリステインの王家の家紋である白百合の刺繍が中央に施された荷車を見れば、その馬車が一目でどこのモノなのかは分かった。 雨が降った時に使われるミルク色の幌を付けた荷車の周りには、薄い鎧を身にまとう衛士が数人仁王立ちで佇み、誰も近づけさせないようにしている。 荷車を牽引するのは何故か栗毛の軍馬一頭で、衛士たちに前方を守られながら蹄を鳴らしてゆっくりと歩いている。 当然一時的に通行を止められた人々は馬車とそれを守る衛士隊に向けて、不平不満を出していた。 「おいおい、どういう事だよこりゃ!何で馬車が通り切るまで通行止めになるんだよ!?」 「何があったか知らないけど、こっちは急いでるんだ。ちよっと脇を通るくらい良いじゃねぇか」 「衛士さん、衛士さん!酒の肴として何があったか教えてくれよ?このままじゃあ、故郷から来た友人を待たせちまうんだわい!」 「ちょっとちょっと!通行止め何てされゃあアタイが仕事に遅れちゃうわ!そうなったらアンタたちが責任とってくれるのかい!?」 老若男女のうえに地方や他国訛りの言葉が飛び交う中で、衛士たち慣れた様子で対処している。 とはいっても石化したようにその場で突っ立っているだけだが、誰一人突破しようと思うものはいない。 各々が利き手で槍を持って仁王立ちをしている姿を見れば、武器を持たぬ者なら喧嘩を吹っかけようとは思わないだろう。 一体何が起こったのかわからぬまま、二人は目の前の光景を見つめている。 そんな中で、ふとジェシカが何かを思い出したかのような表情を浮かべ、ついで口を開いた。 「あっ…う~ん、参ったねぇシエスタ」 突然そんな事を従妹に聞かれた彼女は「えっ、何が…」と返す。 街中での珍しい景色に見とれていた従姉の様子にため息を突きつつも、ジェシカは言葉を続ける。 「学院行きの馬車だよ、馬車!このまま足止め喰らってたら…今日の分は到底間に合いそうにないって」 出来の悪い生徒に教える教師の様な態度で話す彼女に、シエスタはアッと驚いて思い出す。 ブルドンネ街には結構な規模の馬車駅があるが、陽が沈み始めると荷車を引く馬たちを厩へ入れてしまう。 しかもシエスタの仕事場であるトリステイン魔法学院行きは、今の時間帯なら一時間後に動く馬車が最後の便となる。 これを逃せば簡単には学院へ戻れず、厩で高い料金を払って馬を一頭借りなければ行けない羽目になってしまうのだ。 「どうしよう…私が帰らなかったら心配する人たちもいるし…それに明日の御奉公もできないわ」 明日の事を考えて呟くと、シエスタの顔が段々と不安染まり始める。 それを見てどうにかできないかと考えるジェシカであったが、一向に良い案が浮かばない。 「ここからブルドンネの駅まで行くのに大分時間かかるし、何よりこの様子だと遠回りしなくちゃあ駄目だよコレは…」 群衆と衛士たちの押し問答を見ながら、別々の様子を見せる二人の黒髪少女。 熱気と怒号に満ちた通りを冷やすかのように吹く冷たい風が、少女たちや人々の体を撫でていく。 そんな時であった。ゆっくりと通りを進む荷車の中から、『ソレ』が舞い上がったのは。 まるで『ソレ』自体が魂を持ってしまったかのようにスルリと、滑らかに波打ちながら飛び出した。 衛士たちは周りの民衆に警戒し、通りの民衆は衛士たちを睨みつけていた為に気づくモノは一人もいない 「―……?ねぇ、ジェシカ…アレ」 最初に気が付いたのは、どうやって帰ればいいのか悩んでいたシエスタであった。 少し強めの風が吹き荒ぶ街の空を舞い上がっていく細長く赤い何かを、彼女は目にしたのである。 従姉の言葉に何なのだろうかと顔を上げ、ついで『ソレ』を目撃した。 人口の光に照らされた赤い『ソレ』は、まだ何者にも汚されていない星だらけの夜空を飛んでいる。 それはまるで、力を得た鯉が真紅の龍となって飛び立つかのように、波打ちながらも舞い上がっていく。 風向きが空の方へ向いていれば、それは何処までも…それこそ空よりずっと上にある星の海へと旅立っていただろう。 「アレって一体…あ、風向きが変わって…」 「コッチに…」 しかしソレの行く先は不幸にも地上、夜空と違い自然を失って久しい人々の文明圏へと落ちていく。 白いフリルをはためかせて地上へと降りていく赤いソレは何の因果か、彼女たちの元へ向かっている。 自分達の方へと落ちてくる事に気が付いた二人の内シエスタが、反射的に両腕をスッと上へ伸ばした。 学院で掃除や炊事などの仕事をしているにも関わらず、彼女の肌は真珠のように白く美しい。 そんな手に吸い込まれるようにして落ちてきた『ソレ』が、見事の彼女に掴まれてしまう。 『ソレ』を手にしたシエスタが最初に感じたことは、『ソレ』が何かで゛濡れている゛事と―――――異常なまでの゛既視感゛。 まるでいつも何処かで見ていたと錯覚させる『ソレ』の正体がわからず、シエスタは首を傾げそうになる。 しかしその錯覚は従妹の…ジェシカの一言によって掻き消された。 「ソレって、…まさか――――あのレイムって子のリボンじゃ…」 「えっ―――――――」 従姉の言葉に目を丸くさせた彼女は慌てた風に、リボンと呼ばれた『ソレ』をもう一度凝視する。 赤を基調としている為に、白いフリルや模様がよく目に入る目立ちやすいデザイン。 自分の記憶が正しければ『ソレ』…否、赤いリボンは確かにルイズの使い魔として召喚された霊夢のリボンだ。 それに気が付いたと同時にシエスタは、何がこのリボンを゛濡らしていた゛のにも、気が付く。 シエスタはリボンを持つ両手の内左手だけを離し、恐る恐る掌に何が゛付いている゛のか確認した。 数匹の蛾が纏わりつくカンテラの下にいる彼女の目に入ったのは、リボンと同じ色をした―――自分の左手だった。 無意識の内に小さな悲鳴を漏らし、ジェシカは咄嗟に口を押さえて驚愕の意を表している。 本当ならリボンを投げ捨てているだろうが、律儀にもシエスタは手に持ち続けたままソレを眺め続けている。 目を見開き、恐怖で若干引きつった表情でリボンを持つ彼女の姿は、傍から見れば相当なモノだろう。 同僚や上司から綺麗だな、羨ましいと言われていた白い手は、真っ赤な色に染まっている。 それもトマトやペンキとは思えぬほど変に生暖かく、僅かに鉄の様な臭いをも放つそれの正体を、二人は知っていた。 そしてその疑問を恐る恐る口にしたのは、意外な事にリボンを手にしたシエスタ本人であった。 「これって…まさか………――――血?」 彼女の口から飛び出た言葉に、ジェシカは即座に返す言葉を見つけられず狼狽えている。 ただただ口を押え、両手を血で濡らした従妹の背中越しから、そのリボンを見つめ続けていた。 シエスタの頭の中に疑問が浮かぶ。どうしてこんな所で彼女のモノを見つけ、手に取る事が出来たのか。 本来の持ち主は何処へ行ったのか、そして付着した血は誰のものなのか。 運命の悪戯とも言えるような偶然さで霊夢のリボンを手にした彼女の脳内を、知りようのない疑問が巡っていく。 シエスタの後ろにいるジェシカも見慣れぬ血を間近で見たせいか、口を押えて絶句の意を保ち続けている。 静寂に包まれた二人に声を掛ける者はおらず、皆が皆自分の為だけに足を進めて動き続ける。 「おい、お前たち。そのリボンを持って何をしている」 リボンを手にして一分も経たぬ頃…誰にも見向きされず、見咎められない二人に声を掛けた者がいた。 それは鎧とも呼べぬ衛士用の装備を身に纏った金髪の女性―――アニエスであった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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「あ ウ アァァァァァーーーーッ!」 ロングビル、いや『土くれのフーケ』は、恐怖のあまり叫んだ。 バックステップしつつ地面に向かって練金を詠唱し、地面を盛り上がらせる。 巨大なナメクジのように地面がうごめき、侵入者をあっけなく包み込んだが、フーケの心臓の鼓動は今までにないほど激しくなっていた。 フーケは今まで、数々の貴族の館に侵入し、お宝を頂戴してきた。 極力殺人はしないように努めていたが、それは身の安全を図るためのもの。 土くれのフーケが『貴族をギャフンと言わせるニクイ奴』だと平民に思わせるためには、貴族の悔しがる姿を平民に想像させなければならないのだ。 殺人を犯してしまえば、義賊でも、盗賊でもなくなる、ただの『凶賊』に成り下がり、各地にいる支援者からの支援を受けられなくなってしまう。 だから今まではピンチに陥っても、相手を殺さずに済ませてきた。 それをたった今破ったのだ。 フーケは慌てて、土の塊を鉄に練金する。 鉄の棺桶に潰されて、ゼロのルイズと呼ばれたメイジは死んだはずだ。 しかし、心臓の鼓動は激しいまま、本能がフーケに『逃げろ!』と警鐘を鳴らし続ける。 「あ、ああ、あああ」 盗み出した本にも目もくれず、壁に穴を開けて逃げようとしたところで、金属の割れる音が響いた。 ビキッ… ゴリッ… 「NNBAAAAAAAAAAAAAA!」 全身を血で真っ赤に染めたルイズが、力づくで鉄の塊を割って現れる。 血で染まった髪の毛が、その血を吸収し、瞬く間に色が綺麗なピンク色に戻っていく。 斜めに歪んだ顔面が、ゴキッ、ベキッと音を立てて、元の形に戻る。 練金の巻き添えを食らい、金属と同化した服が破れ、ルイズは全裸になっていた。 鉄の卵から『生まれた』と表現すべきその姿は、ピンク色の髪の毛が妖しく逆立つ光景に相まって、まるで蝶々の脱皮のように見えた。 「ーーーーーーーー!!」 声にならない叫びを上げたフーケは、練金で壁を崩し、あばら屋の外に出た。 外に出てすぐに地面に向かって詠唱し、ゴーレムを作り出す、身の丈30メイルはありそうな巨大なゴーレムだ。 「ひいいぃぃっ!」 涙が溢れそうになるのを必死でこらえながら、フーケは杖を振る。 のこのことあばら屋から出てきたルイズは、巨大なゴーレムの肩に乗ったフーケを見上げた。 これほどのゴーレムを作り出せる魔力は、トライアングル以上、スクエア未満と言ったところだろう。 ルイズは笑みを浮かべ、地面を蹴って跳躍した。 地面は、その衝撃を吸収しきれず、ボゴン! と音を立ててえぐれる。 瞬く間にフーケと同じ高さにまで跳躍したルイズは、口を半開きにしたフーケの表情を見た。 フーケもルイズの規格外の跳躍力に驚いていたが、ゴーレムを操り、直径5メイル程もある腕をぶつけた。 顔にハエがたかるぐらいなら、軽く手を振るぐらいで済むだろう。 しかし今のフーケの心境は、殺傷能力の高い毒蜂を目の前にしたようなものだった。 ルイズは、ゴーレムの腕に吹き飛ばされるどころか、ゴーレムの腕に自分の足を突きさし、一歩一歩確実にフーケの元へと近づいてくるのだ。 フーケは慌てて魔力を解除し、ゴーレムの腕を土くれに戻した、それに併せてルイズも地面へと落下したが、空中で体制を整えて綺麗に着地した。 「ばっ、化け物!化け物!」 フーケが叫ぶ、それを聞いてルイズは笑う。 ここに獲物と捕食者の関係が成立した。 だが、土くれのフーケも修羅場をくぐった身、ルイズの体に土が付着しているのを見逃さなかった。 フーケが杖を振ると、ルイズの体についた土が油に練金される、そしてその油に向けて着火の呪文が放たれた。 ルイズが炎に包まれる、いくら化け物とはいえど、炎に身を包まれればやがて燃え尽きるはずだと思っていた。 しかし、その期待は、炎の中で笑みを浮かべるルイズを見て、裏切られてしまった。 「ばっ、ばかな、そんな!」 「ねえ、熱いわ、そろそろ終わりにしましょう?」 余裕綽々といったルイズの言葉が、フーケを正気に戻らせた。 この化け物は規格外だという事実を、やっと受け止められるようになったのだ。 フーケは覚悟を決めると、ゴーレムを維持していた魔力を解除し、ゴーレムを丸ごと油に練金した。 フーケはゴーレムの肩からジャンプすると、小さいゴーレムをてクッションの代わりにして地面に着地した。 着地の衝撃で呼吸が乱れるが、すぐさまルイズの周囲に金属の棘を練金し、ルイズを炎の中に固定する。 「あああ…熱いわ!ねえ、そろそろ止めて頂戴!」 「駄目よ!そのまま焼け死ね化け物!」 熱い、熱いと言いながらも、ルイズは笑顔を崩していない。 フーケはそれが『強がり』なのか『余裕』なのか分からなかった。 いや、それが『余裕』だと認めたくなかったので、悩んでいるフリをしていたのだ。 「仕方ないわね」 ルイズがそう呟くと、一瞬で周囲の炎が消えた。 ジュウジュウと音を立てて地面から煙が立ち上る。 唖然としているフーケが地面を見ると、ルイズを中心に地面が凍り、フーケの足下まで霜が降りていた。 「…あら?地面の水分を使って消火するつもりだったのに、そっか、汗腺から水を出すと体温が氷点下にまで下がるのね、面白いわ」 そう言いながら、凍った地面をベキベキと突き破り、ルイズがフーケに近づく。 焼けただれた体も、無惨に焦げた髪の毛も、一歩歩くごとに再生されていった。 フーケの目の前にたどり着いたときには、その肉体のすべては完璧に再生されていた。 ぽたぽたと、足下に水の落ちる音がする。 体中から力の抜けたフーケは失禁し、地面にへたり込んだ。 「…ねえ、あなた、欲しいものは何?」 ルイズの言葉が、頭に響く。 「王には王の、平民には平民の、貴族には貴族の生き方があるわ」 地面に腰をつき、ルイズを見上げているフーケの顔に手を伸ばし、両手でフーケの顔を包む。 「盗賊には盗賊の生き方があるけれど、あなたは生まれつきの盗賊ではないでしょう?」フーケの体はひょいと持ち上げられたが、視線はルイズから外れなかった。 「盗賊になって貴方は何が欲しかったの?意地だけではないでしょう、『趣味』でもない…『実益』を兼ねて盗賊をしている…違うかしら?」 フーケの体から力が抜け、握っていた杖すら落としてしまう。 言葉を出す力すら出てこない。 「緊張しているの?それとも、怖がっているのかしら」 そう言ってルイズは笑みを浮かべた。 ルイズの口内で、牙が妖しく光る。 その牙で無惨に顔面を噛み砕かれる様を想像して、フーケは嘔吐した。 「げぇえっ、げほっ、げほっ」 地面にビチャビチャと吐瀉物が落ちる、既に胃の中は空になっているが、極度の恐怖と緊張がフーケの横隔膜を痙攣させ、嘔吐を続けさせていた。 ルイズは吐瀉物で汚れたフーケの顎に手を添えて、顔を上げさせる。 「ゲロを吐くほど怖がらなくてもいいじゃない…ね、友達になりましょう」 フーケは、吐瀉物と共に、体の中からわだかまりが出て行ったような錯覚に陥った。 先ほどまで感じていた恐怖も、殺気も無い、あるのはただそこにある『諦め』だけだった。 「わ、わたしの、血を、吸うの?」 フーケの質問に、ルイズは首を振った、NOのサインだ。 「ど、どうして?」 「私は友達が欲しいの、奴隷なんて欲しくないわ。ねえ…貴方は自分を人間だと思っているかもしれないけれど、 貴族に刃向かった貴方が捕らえられたら、人間以下の扱いを受けて処刑されると思うわ」 フーケはルイズの言葉を聞きながら、今までに行った盗みを思い返した。 「人間を人間たらしめているのは何かしら?私は『自覚』と『覚悟』こそが人間を人間にしていると思うの、私はもちろん『吸血鬼としての自覚』がある」 「自覚…」 「そうよ…ねえ、フーケ、貴方は何になりたいの?」 しばらくの沈黙の後、フーケは答えた。 「故郷で…平穏に暮らせれば…それでいいわ」 ルイズは、にやりと笑った。 「平穏に暮らしたいと思うでしょう?私もそう思うわ、でも、貴方は故郷と言ったわね、故郷を故郷としているものは何かしら、土地?環境?それとも………家族」 家族という言葉に反応し、ロングビルの肩が震える、ルイズはそれを見逃さなかった。 「家族が居るのね…羨ましいわ、私はもう家族として認められない者になったのだから。ねえフーケ…いいえ、ミス・ロングビル、貴方は魔法学院に戻って、 宝物をフーケから取り返したと伝えてくれないかしら、貴方はこれから『仲間を作る』覚悟が必要よ、ヒトは一人では生きられないもの」 フーケはルイズの言葉を黙って聞いていたが、仲間という言葉には異を唱えた。 「仲間なんて、そんなもの不要よ、私は一匹狼の盗賊よ、それに貴族に尻尾を振る気は無いわ」 「強情なのね。でも、貴方はきっとお友達を作るわ、だって、貴方が言った『平穏』は『家族と過ごす平穏』でしょう? 貴方は寂しがりや…私と同じ…」 そう言ってフーケを見つめるルイズの瞳が、どこか寂しげに見えた。 (私が、吸血鬼に同情するなんて…) そう考えたところで、ふと故郷に住むハーフエルフの少女を思い出す。 (どうやら、私は亜人と縁があるのかねえ) 「分かったわよ、言うとおりにするわ、学院に戻って宝物を取り返したと言えばいいんでしょう?まったく私もお人好しだねえ」 「ええ、そうしてくれると助かるわ…それと、一応私は死んだことにしてくれないかしら、私は今日明日を境にして行方不明になるつもりだったの」 「それは構わないけれど…いいのかい?」 「ええ、それともう一つ約束するわ、人間から少し血を貰うかもしれないけれど、食屍鬼(グール)にはしない。奴隷なんて欲しくないし、人間とは仲良くしたいもの」 「よく言うわ」 「…あ、それと、体を再生してちょっと疲れたから、一口分だけ血を飲ませてくれないかしら」 「………」 先ほどまでルイズを怖がっていたと思えない程、嫌そうな顔をするフーケ。 「大丈夫よ、グールにはしないって言ったでしょう、ちょっと腕を出して」 フーケが左手を出すと、ルイズはフーケの袖を捲り、二の腕のあたりに爪で切り込みを入れた。 「…つぅ」 「いただきまぁす」 そう言ってルイズが腕に吸い付く、全裸の少女に抱きつかれているようで、フーケはどこか落ち着かなかった。 そして、違う意味でも落ち着かなくなっていった。 痺れにも似た快感が襲ってくるのだ、傷口が性器にでもなったかのように、じわりじわりと快感の波が広がる。 ルイズの舌が傷口を舐める度に、敏感な部分を舐められたかのような刺激が伝わり、自然と呼吸が荒くなる。 ちゅぽ、と音を立ててルイズが口を離すと、フーケは「もう終わり?」とでも言いたそうな顔でルイズを見た。 「えへへ…ごめんなさい、二口分吸っちゃった」 「え、ああ、なんならもっと吸…いやいや、何考えてるんだアタシったら」 「じゃあ、後かたづけをするから、盗んだ本を持って離れてくれないかしら」 「分かったわ」 。 100歩以上離れた所で、地面を掘って身を隠したルイズは、フーケも一緒に避難したのを確認し、ファイヤーボールの魔法を詠唱した。 「あれ?アンタって魔法が使えないはずじゃ…」 ルイズは今悪戯っ子のような笑顔でフーケにウインクしつつ、今までにないほどの集中力でファイヤーボールを詠唱する。 そして、あばら屋を中心にして半径30m、ゴーレムの破片も何もかもを吹き飛ばす、巨大な爆発が発動した。 「どう?『ゼロのルイズ』唯一の特技、堪能したかしら」 「え、ええ…」 フーケは引きつった笑みを浮かべた。 To Be Continued …… 5< 目次
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ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内にある、いわゆる中庭である。 建物の日陰になる静かな場所であり、決闘にはうってつけの場所だが、今日ばかりは噂を聞きつけた生徒たちが沢山集まっていた。 「決闘だ!」 誰かが叫ぶ。すると、待ってましたと言わんばかりの歓声が起こる。 「ギーシュが決闘するぞ! ルイズ、ゼロのルイズが相手だとさ!」 ギーシュは周囲の歓声に答えるかのように腕を振る。そして、ルイズの方を向いた。 人垣の中から現れたルイズは、ギーシュから離れた位置で制止し、無言のままギーシュを見ている。 「ふん、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか。しかし僕も女性に乱暴な真似をしたくはないんだがね」 ルイズは黙ったままだ。 「…本当にやる気かい?やれやれ…謝るのは今のうちだよ」 ギーシュが言ったのに合わせて、ルイズは杖の先端をギーシュに向けた。 『戦いの準備は整っている』 そんなルイズの雰囲気がしゃくに障った。 ギーシュは、薔薇の花を振り、一枚の花びらを宙に舞わせる。 瞬く間に甲冑を着た女戦士、いや、女戦士の形をしたゴーレムが現れた。 「今更謝るまいね。この青銅のギーシュ、青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう!」 言うが早いか女戦士の形をしたゴーレムが、ルイズに殴りかかろうと突進し始めたその瞬間、ルイズは小声で呪文を唱え終わっていた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司《つかさど》るペンタゴン。我の運命《さだめ》に従いし、〝使い魔〟を召喚せよ」 ズドン! 爆発音と共に宙に浮かぶワルキューレ。爆風に押されて転がるギーシュ。そして、手から離れ落ちた薔薇… 薔薇はギーシュの杖だった。 貴族同士の決闘は命がけのもの。しかし、そんなのは既に過去の話。 もっともエレガントな勝ち方は相手を傷つけず、杖を手から落とさせる勝ち方。 爆発によって巻き起こった煙が晴れ、後にはバラバラになったワルキューレと、何が起こったか分からないとでも言いそうな表情で目をぱちくりさせているギーシュだけが残っていた。 「…あ、な、なんだ、また失敗魔法じゃないか!」 そう言って杖に手を伸ばそうとするギーシュに、今度はファイヤーボールの呪文を唱える。 ポン! 今度は小さな爆発が起こり、ギーシュの杖を更に遠くに吹き飛ばした。 ギーシュはルイズに対する認識を改めていた。 観客の中にいるキュルケも、タバサも、今更になってルイズの変化に気付いていた。 「ギーシュ、あなたは杖を落としたわ。それでもまだやるの?」 杖をギーシュに向けたまま構えを解かないルイズ。彼女から発せられる言葉からは、何か得体の知れない”スゴ味”が伝わってくる。 ギーシュはルイズの雰囲気に飲まれ、その場から動くことが出来なかった。 決闘が始まる前は騒がしいほどだった歓声も、今はなく、風の音だけが耳に入る。 ルイズはおもむろに杖をしまうとギーシュに歩み寄り、観衆には聞こえない程度の声で、言った。 「…この”ゼロのルイズ”は…いわゆる落ちこぼれのレッテルをはられているわ。 何度魔法を試しても爆発するばかり。家庭教師だって何人も替わった。 イバルだけの家庭教師に、わざと魔法を爆発させたこともあったわ。 だけど、こんな私にも、貴族としての誇りはあるわ! 自分のために弱者を利用しふみつける人は、けっして貴族じゃない! ましてや平民の女の子を!貴方がやったのはそれよ! 魔法は被害者自身にも法律にも見えねえしわからねえ・・・だから!」 そこまで言ってルイズは言葉を止めた。 魔法は見えないはずはない。見えない魔法もあれば、見える魔法もある。 自分の言葉がおかしい。 何か別の人の言葉が口から出ているみたいだ。 これ以上言うとボロが出るかもしれない。そう考えてルイズは 「二股かけていた二人と、あのメイドに謝りなさいよ」 とだけ言って、ヴェストリの広場を立ち去った。 その姿はいつになく堂々としていた。 ギーシュも、モンモランシーも、キュルケも、タバサも、ルイズの後ろ姿を見ながら同じ事を考えていた。 ルイズの”スゴ味”の正体は、絶対の自信。 彼女はゼロのルイズ。魔法成功確率ゼロのルイズ。 逆に考えれば ”爆破成功率100%のルイズ”だ。 ---- //第六部,スタープラチナ #center{[[前へ 奇妙なルイズ-3]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-5]]}
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『バジリスク ~甲賀忍法帖~』より薬師寺天膳を召喚 ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 01 ルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!- 02
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《ルイズ》 No.483 Character <第七弾> GRAZE(1)/NODE(3)/COST(1) 種族:魔界人 (自動α): 〔相手プレイヤー〕の手札の上限枚数は-2される。 攻撃力(3)/耐久力(4) 「あら、何者かしら?」 Illustration:ヒラサト コメント 魔界に住む住民の一人。 相手の手札の上限枚数を減らす効果を持つ。 (自動α)により場にいるだけで相手の手札にロックを掛ける。また記述が無い為この効果は重複が可能。 基本的に手札消耗が激しいこのゲームで1枚ではそれほどでも無いが、2枚(手札上限3枚)、3枚(手札上限1枚)と場に揃うと洒落にならない影響力を与える。 またこのカード自体もノード3のキャラクターにしてはそこそこの戦闘力でグレイズも低いバランスの取れたスペックを持つ。耐久力が4あり人界剣『悟入幻想』や春乞いの儀式といった小型用の除去で処理されにくいのは上記の効果を発揮する上でも役に立つ。 特に他の小型アタッカーがユキ/7弾やマイ/7弾といったグレイズが高く序盤に使い辛いキャラクターしかいない魔界絡みの種族:魔界人統一デッキでは、序盤を繋ぐ優秀なアタッカー兼上記の効果によって相手の動きを縛るソフトロック要員として地味ながらも重宝するだろう。 他にも、河城 にとり関連のカードのドローによるデッキアウトを狙う場合などで、このカードを組み合わせる事で相手にカードを引かせるリスクを抑えるといった使い方も出来なくは無い。 特に友邦の科学チームと一緒に場にいると、上限以上の手札を直ちに無作為に捨てさせる為、運次第では相手の手札を壊滅状態に出来る可能性もあり強力である。 関連 第七弾 ルイズ/13弾